カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記

表現規制反対活動を昔していた。元エロマンガ家。元塾講師。現在は田舎で引きこもりに似た何か。

海上自衛隊の先制攻撃論

斎藤貴男『ルポ改憲潮流』(岩波新書、2006年)から。

靖国神社問題で揺れた二〇〇六年の初頭は、一方では官公庁や大企業が管理している重要情報が大量に漏洩する事件が相次いだ時期でもあった。愛媛県警の捜査資料やNシステム(全車両の移動をカメラとコンピュータで記録・監視するシステム)情報、陸上自衛隊の内部文書、電力会社の原発関連情報、北海道斜里町住基ネット情報、在日米軍三沢基地の通行許可証・入構証の情報などが、ファイル交換ソフトWinny」(ウィニー)の暴露ウィルスに感染したために、続々とネット上に流出していく。
夥しい量の流出文書の中には、海上自衛隊佐世保地方隊が二〇〇三年十一月七日からの十日間にわたって展開した実動演習の計画書もあった。「警戒・警備及び周辺事態作戦計画」(15GS−A−B)。「秘」の注意書きが添えてある。護衛艦あさゆき」で通信業務を担当する海曹長の私物パソコンから、暗号に関する文書などフロッピー二百九十枚分が漏洩したと、二月二十三日付の朝刊各紙で報じられた、その中に含まれていた。〔略〕
「15GS−A−B」文書には、重大な疑念と不信を覚えずにはいられなかった。憲法自衛隊に課せられているはずの制約の数々が、ほとんど意に介されていない。
〔略〕二〇〇三年の、しかも海自では「機密」よりはるかに秘密性の低い「秘」扱いで、一般企業で言えばせいぜい係長クラスでしかない海曹長が持ち出せる程度の文書に憲法違反の疑いが読み取れてしまう現実。とすれば権力の中枢、奥の院には、いったいどんな「機密」が存在するというのだろうか。
権力は良いこともするが、悪いこともする。どのような時代になろうとも、彼らが道を踏み外しそうになった時、敢えてこれをチェックするのがジャーナリズムの役割であると信じ、私〔斎藤貴男〕は「15G」の内容を、講談社発行の月刊誌『現代』(二〇〇六年六月号)に公開した。〔略〕
「15G」は、「茶」国と「黄」国を仮想敵国としていた。他に主人公である「青」国や、同盟関係にある「緑」国、「茶」国と三十八度線を挟んで対峙する「紫」国などが登場する。順に北朝鮮、中国、日本、アメリカ、韓国であることは、添付資料の地図で明らかだった。
周辺事態法の第一条のいう事態〈そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(以下「周辺事態」という。)〉が発生した、という設定だ。具体的には、「茶」国〔北朝鮮〕が経済制裁を受けて深刻な経済危機に陥り、戦時態勢に移行する。反「緑」〔アメリカ〕キャンペーンが始まって、軍事行動の兆しが見られるようになっていく。「黄」国〔中国〕もまた、「緑」国〔アメリカ〕が「黄」〔中国〕市場からホットマネーを一斉に引き上げたのを契機に株式市場が大暴落*1。一方では〈S諸島の領有権を主張し〉たり、その周辺海域で漁船が領海侵犯して「青」〔日本〕の巡視艇へ体当たりする事案が生起するなどして、やがて「茶」〔北朝鮮〕と「黄」〔中国〕は協同して「緑」〔アメリカ〕および「緑」を支援する国家への妨害を開始していく。この過程で「青」国〔日本〕の周辺事態法が発動したとする筋書きだった。途中までは現実の情勢と変わらない。「茶」〔北朝鮮〕と「黄」〔中国〕が不穏な情勢に陥る契機が、「青」〔日本〕や「緑」〔アメリカ〕の側から仕掛けられている点に注目したい。
ざっと以上のような想定で、海自佐世保地方隊は、「周辺事態」への対応として、次のような演習(フェーズ1)を行なったのである。船舶検査活動/MIO(海上阻止活動)、後方地域捜索救援活動、後方地域支援、在外邦人等の輸送、機雷除去など。「警戒上・警備上の事態」への対応として監視警戒、不審船対処、弾道ミサイル対処、領水内潜没航行潜水艦対処、自衛警備など(ゴシック〔ここでは太字で表示〕は日米協同訓練として実施)――。
海自佐世保地方隊の作戦計画は進行していく。六日目からは「フェーズ2」に移行する。計画名も「防衛出動作戦計画」(15G S−C)に変わった。「日本有事」「防衛上の事態」と明確に位置づけて、演習も戦争そのものを想定したものになっていく。〔略〕
特筆すべきは、「フェーズ1」の「船舶検査・警戒・設備及び周辺事態対応」をまとめた文書だった。そこには、こんな「基本方針」が述べられていた。
 〈a.防衛庁長官から船舶検査活動の実施が特令された場合、速やかに、関係機関等と調整し、当該活動を実施する。
  b.船舶検査活動を実施する部隊を船舶検査活動部隊(略称を「SIG」[Ship Inspection Groupe]とする。)とし、指定海域毎に船舶検査活動部隊指揮官(略称を「SIGC−海域」とする。)を指定する。(中略)
  c.船舶検査活動法に基づく我が国の船舶検査活動と同種の活動に参加している各国海軍との混交を避けるため、海上作戦調整所(MFCC)において、緑〔アメリカ〕海軍との情報交換及び調整を図る〉
船舶検査」という表現が曲者だ。この問題は前田哲男・飯島滋明編著『国会審議から防衛論を読み解く』(三省堂、二〇〇三年)に詳しい。それによれば、「船舶検査」は周辺事態法においてACSA(物品役務相互提供協定)と並ぶ日本側の米軍に対する「周辺事態協力」の一つとされている。国際法で「臨検」(visitation)と呼ばれる行為と同じで、軍艦が航行中の外国船に停船を命じ、禁輸品がないか積荷を検査して、場合によって拿捕などの実力を行使することを言う。
日本でも領海内での臨検は海上保安庁の治安維持行為として行なわれているが、自衛隊の場合は侵略阻止目的の自衛行動でない限り憲法九条二項に抵触すると、解釈されてきた。このため一九九九年、政府は周辺事態法に対米支援活動を盛り込む際、「臨検」を「船舶検査活動」(inspection)という用語に置き換えて切り抜けようとしたのだが、〈停船を命じるための警告射撃は「武力による威嚇」に当たり、拿捕すれば「武力の行使」になるとの異論が与党内部にも生じた〉。そこで周辺事態法の本筋からこの条項は外され、結局、関連はするが別の「周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律」を翌二〇〇〇年十二月に制定する形に落とし込まれたのだった。そのような経緯があって、にもかかわらず、文章の中には、この船舶検査活動を海自が、しかも公海上で*2、「緑」〔アメリカ〕海軍と協同で行う旨を図示したものまで含まれていた。
「15G」作戦計画の想定を確認しておこう。日本は「茶」国〔北朝鮮〕や「黄」国〔中国〕に侵略されたわけでも、先制攻撃をかけられたわけでもなかった。ただ、何となく危なそうだから、それは周辺事態の定めるところの「周辺事態」に合致すると判断したからという理由だけで、逆に日米連合軍の方から戦争状態に持ち込んでいったのではなかったか。
〔略〕ジャーナリストの前田哲男氏に文書を読んでもらい、感想を尋ねた。
「この文書を読む限り、自衛隊は“戦端”が開かれる前に行動を起こしています。朝鮮戦争のように北が南に軍事行動を起こすという事態の前段階、形勢不穏になったような時に、「周辺事態における安全確保・警戒」という名目で、米軍とともに軍事的な行動に移っているように解釈できます。しかも船舶検査・作戦輸送など、米軍の攻撃に組み込まれている――という意味では、従来の専守防衛から先制攻撃容認へと大きく舵を切ったと言えるでしょう」
(210-215p)

ここを読んで色々思った。
もはや日本のジャーナリズムはWinnyに期待するしかないのかな、とか。
なんだって最大の輸入相手国に先制攻撃するというアホなシナリオなんだろう、防衛庁の経済理解力は中学受験をする小学生以下か、とか。
日本の先制攻撃論は1937年以降戦略的に成功したためしがない、だというのになんだって先制攻撃論なんだろう、防衛庁の作戦部の脳味噌は膿んでいるのか、とか。(かつて日本を滅ぼした「実績」を持つ瀬島龍三あたりが一枚かんでいるのかな?)
米軍は日本軍(自衛隊)を補給部隊・輜重部隊として運用する予定に冷戦終結以降計画を組み替えているみたいだが、日本軍の補給戦・護衛戦の下手糞さは15年戦争で証明済みなのに世界一補給戦の下手な軍隊によくそんなとこ任せるよな、米軍はベトナム戦争以降ずいぶん大日本帝国大本営化したが、いよいよもって作戦能力・戦略能力が大本営化したかな、とか。
防衛庁の「15G」の「予定」と2chネット右翼工作員」の「政治観(外交観)」は恥ずかしい形で一致しているなあ、とか。

ルポ 改憲潮流 (岩波新書)

ルポ 改憲潮流 (岩波新書)

ぽちっとな 

*1:〔カマヤン注〕この想定はありえない想定、リアルを欠いた想定だと思う。逆ならありえるかもしれないが。アメリカ経済が中国経済に頼っている以上、この想定は「アメリカが自殺して」という想定同然だと思う。

*2:〔カマヤン注〕つまり「自衛」活動ではなく、軍事活動である。

フランスの共謀罪はひとつだけ、日本の共謀罪は619種類。

保坂展人ブログから。

http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/7ee2edf8572dd2e395969404c09ec96f
パリから共謀罪教育基本法の審議に注目している飛幡祐規さん(『先見日記』の執筆者http://diary.nttdata.co.jp/diary2006/05/20060523.html)からメールを頂いた。〔略〕

〔略〕フランスでは国連条約(国際組織犯罪防止条約)の批准はとっくにしていて(2002年)、そのあと「合わせる」ための国内法整備は2004年に出来ています。
「犯されていない罪」に対して「コンピラシー」(共謀)だけで処罰されることになった犯罪が1種類加えられています。(2004年3月9日の法律で刑法に加えられた条項)。「暗殺と毒殺をするよう、誰かに何か報酬や贈り物をあげるか、あげると約束した者は、その犯罪が行われなくても10年の禁固刑と15万の罰金を受ける。犯罪が実行・未遂された場合はこの条項ではなくて、共犯罪として罰せられる」
このひとつだけですね。
http://www.justice.gouv.fr/actua/bo/3-dacg95f.htm#nouvelles_infractions
〔略〕(飛幡祐規)

〔略〕たったひとつの共謀罪に対して、日本は619種類。〔略〕後段の実行・未遂に対しては「共謀共同正犯」が幅広く刑事司法で認められていて(幅広すぎると私たちは批判するほどに)、特段の法整備は必要としていない。外務省が世界各国の「共謀罪」の対象犯罪・運用状況についてだんまりを決め込み、「一切承知していおりません」と答弁しているのは意図的ではないかと強く疑問を持つ。〔略〕
条約交渉過程で日本政府は「共謀罪」新設に反対してきている。まず、この交渉過程をきちんと公開してもらうことが重要だ。〔略〕

以上、メモしておく。

ぽちっとな