カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記

表現規制反対活動を昔していた。元エロマンガ家。元塾講師。現在は田舎で引きこもりに似た何か。

ネイチャーの新しい論説

      政治対真実 (翻訳修正版)http://list.jca.apc.org/public/aml/2005-March/000854.html
 日本の政治家たちは、それがどれだけ不愉快であろうとも、科学的不確定性を直視しなければならない。彼らは北朝鮮との論争において外交的手段を用いるべきであり、科学的整合性を犠牲にすべきではない。
 日本の内閣総理大臣 小泉純一郎氏は、日本のある大衆週刊誌によれば、先月のネイチャーのニュース記事のためフラストレーションで頭を抱え込んでいる。
 1977年に13歳で北朝鮮に拉致された横田めぐみさんがまだ生きているかどうかが争われている。2002年、北朝鮮は13人の日本人を拉致したこと、彼らの幾人かを海岸から連れさったことを認めた。それ以後、北朝鮮拉致被害者に関する情報提供の不熱心さが両国間の紛糾を招いている。(ネイチャー2005年433巻、445頁参照)
 横田さんを含む拉致被害者の殆どが死んだという主張は信じ難い。北朝鮮は昨年日本に送った遺骨は彼女のものだと言っている。しかし日本の鑑定はDNAは誰か別人のものだということを示し、北朝鮮軍は彼女をまだスパイ育成のため使っているのではないかという疑惑を生んでいる。
 日本が北朝鮮のすべての声明を疑うことは正しい。
 しかしDNA鑑定の解釈は科学の政治干渉からの自由の限界を踏み外している。鑑定を行った科学者へのネイチャーのインタビューは、遺骨が汚染されていて、当該DNA鑑定を結論の出せないものにしている可能性を提起したものである。
 この提言は北朝鮮が欺瞞の権化と映って欲しい日本の政治家にとって快いものではなかった。
 日本政府はこの記事に対し鋭敏に反応した。伝えられるところによると、内閣官房長官細田博之氏は記者会見において、ネイチャーの記事は“不適当な表現”を含んでおり、科学者の発言を誤って書いていると主張した。細田氏は記事のなかの意見は“一般論”であって、当該ケースについて述べたものではないと語り、このことは科学者にも確認していると付け加えた。一方、その科学者自身は、見るところ、もはやインタビューにも応じられない状況にある。
 遺骨は汚染されていたかもしれないということは避けようのない事実である。この悲惨な出来事中に、骨がどんな経路を辿ったかを誰が知り得ようか。北朝鮮によれば、遺体は発掘前、2年間埋められ、1200℃で火葬され、その後、小サンプルが日本に送られる以前、女性の夫の家に保管されていた。北朝鮮がうそをついている可能性は大いにありうる。しかし日本が期待するDNA鑑定がこの問題を解決することはない。
 問題は科学にあるのではなく、政府が科学の問題に干渉していることにある。科学は、実験、およびそこから生じるすべての不確定性が精査に開放されるべきだという前提の上に成り立つ。鑑定はもっと大きなチームでなされるべきだという他の日本人科学者の主張は説得力をもつ。日本はなぜ一人で研究している一科学者に
鑑定を委ねたのか。そして彼はもはや鑑定について語る自由さえ失っているかに見える。
 日本の政策は外交的失敗―より正確には、日米安保体制の失敗―の穴埋めのための必死の努力のように見える。安保体制は日本の安全及び極東における国際平和と安全の維持と引き換えに不人気な基地を日本におく権利を合州国に与えるものである。
 日本はUSの支持のもと、北朝鮮に対して別のレバーをひくことができたであろうか。答えは明確ではない。しかし別の問い方もできる。もしもある全体主義国家がスパイ候補に25年間言葉を教えるために、US市民を海岸から拉致し連れ去ったとしたら、ジョージ・ブッシュあるいは他のUS大統領はDNA鑑定結果で言い争いつつ、遺灰の袋をもってそこにたたずんでいるであろうか。
 日本の政治的、外交的失敗のつけの一部が、科学者にまわされようとしている。実験から結論を導き、実験に関する合理的な疑問を呈することを仕事とする科学者に。しかし、北朝鮮と日本の間の紛糾はDNA鑑定では解決されないであろう。同様に、DNA鑑定結果の解釈は両国どちらの政府によっても決着がつかないであろう。北朝鮮と交渉することは確かに面白くない、しかしそのことは科学と政治の分離のルールを破ることを正当化するものではない。
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 翻訳 野田隆三郎