カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記

表現規制反対活動を昔していた。元エロマンガ家。元塾講師。現在は田舎で引きこもりに似た何か。

「治安悪化」説のカラクリ

以下、保存しておく。

http://www009.upp.so-net.ne.jp/kansi-no/news/documents/news_2004-006.htm
* 「治安の悪化は本当か?――つくられたモラルパニック」 03年12月15日学習会報告
[略]

1.主な犯罪件数は20年前と同じ――「治安悪化」説のカラクリ

 新聞紙上で「刑法犯の認知件数が300万台を超え治安の悪化に歯止めがかからない」という言い方をされる。
 1981年、私[龍谷大学法学部教授(犯罪学)浜井浩一]が大学に入った当時は治安などという問題は一顧だにされなかった。「治安悪化」が叫ばれ出したのは、1997年の神戸事件以来だ。しかし、97〜99年あたりは、認知件数を見ても、ほとんどの犯罪において84年のレベルから下にある(図1)http://www009.upp.so-net.ne.jp/kansi-no/news/documents/news_2004-006.files/image002.gif
 殺人の件数は、いったん下がって、そのまま横這い状態が続いている。傷害、脅迫に関しては、理由があるが2000年からジャンプしている。徐々に増加している侵入盗も2001年でようやく1981年のレベルに達しているにすぎない。
  ○検挙率の高低は警察方針に連動
 窃盗の認知件数が上がって、徐々に検挙率が落ちている節目は、警察の方針が変わったときだ(図2)http://www009.upp.so-net.ne.jp/kansi-no/news/images/graf2.gif。昭和61年に就任した刑事畑出身の金沢警察庁長官*1が、従来の「検挙率維持」という指示を転換して「重要犯罪対策に精力を注ぐべきだ」と指示した。これによって、昭和63年あたりから検挙率が落ち始める。平成4年の時点では、公安畑の木口長官が「検挙率は治安のバロメーターだ、頑張れ」と指示したので、短い時期だがいったん検挙率が上っている。このように検挙率・認知件数は、警察の政策によって動いているのである。
 注意してもらいたいのは、窃盗犯の検挙人数が減っていないのに、検挙件数が減っているということだ(図3)http://www009.upp.so-net.ne.jp/kansi-no/news/images/graf3.gif。平成11年の桶川ストーカー事件をきっかけとして、被害者の申し出にきちんと対応しろという指示がだされた。これによって、警察のとりあげる事件数が急増し、警察が忙しくなり検挙者の余罪調査をおこなわなくなった。検挙人数は落ちていないのに検挙件数が落ちたのはそのためだ。[略]

2.誇張したマスコミ報道が煽る「体感治安」の悪化

 警察の不祥事を契機として平成12年の警察改革で「告訴告発の受理処理の適正化と体制強化について」などの4種類の通達が出され、相談しやすい環境を整えた。その結果、相談が増えて、警察窓口では前裁きできなくなり、事件として立件されていく(図4)http://www009.upp.so-net.ne.jp/kansi-no/news/images/graf4.gif。余罪調査も簡略化されて、検挙率が下がっていく。これをマスコミが報道する。これによって、体感治安が悪化していく。こうして「安全神話が崩壊した」という言説がもたらされ、外国人と少年をターゲットにして厳罰化が進められている。
 犯罪報道と実際の犯罪の関係をみると、実際の殺人の認知件数は緩やかな減少傾向にあるのに、殺人に関する報道の件数はどしどし上昇している(図5)http://www009.upp.so-net.ne.jp/kansi-no/news/images/graf5-1.gif。犯罪の不安を何によって感じるか調査してみると、54・1%と最も多かったのが「新聞やテレビの犯罪報道をよく見る」とあげている。「少年による犯罪は増えたと思いますか」という質問に「非常に増えている」と回答した人の比率では、「あなたの街では」が13・5%、「世の中全体では」が62・5%である。身近なところではあまり聞いたことがないが、報道を見ると少年犯罪が増えていると感じる、ということだ。

3.日本の犯罪被害率は今でも世界で最も低い

 では、国際的に見て日本の犯罪被害の実態はどういう状態にあるのか? ICVS(国際標準化された犯罪被害調査)を見ると、侵入盗は、フィンランドに次いで低い。脅迫のみを除く暴力犯罪、強盗は、日本が他国に比べて遙かに低い(図6)http://www009.upp.so-net.ne.jp/kansi-no/news/images/graf6.gif
 ところが、犯罪不安は高い。一年以内に住居侵入にあう可能性を尋ねると、「ある」と答えた人が34%。「警察が役に立っているか、防犯活動を一生懸命にやっているか」という質問に対しては、予想に反して日本は評価が低い。警察に対する評価が下がり、犯罪に対する不安が上がり、厳罰化が求められる、ということが統計的な傾向として言える。

4.「治安悪化」説がもたらす過剰な犯罪不安――モラルパニック

 現実の犯罪発生に関係なく、人々の間で、犯罪が増加し治安が悪化しているという言説が既定の事実として信じられ、犯罪不安が急速に高まっていくような現象。特定のターゲット(少年と外国人)を狙って日本全体がどうにかなっているとマスコミがそれを助長していく。こうしたモラルパニックは、社会が変革期を迎えているときに起きやすいといわれている。保守的社会層から「秩序やモラルが低下してとんでもないことになる」という意見が出され、これがマスコミによって助長されていく。
 そういうときに、誇張された犯罪統計が用いられることが多い。[略]

6.監視カメラに防犯効果ナシ

 自民党民主党マニフェストでは、すべてを少年と外国人のせいにしている。外国人犯罪は増えてはいるが、全体に与える影響はそんなに大きくない。マニフェストの前提になっている事実認識が間違っている。対策も間違っている。警察官の増員や監視カメラ、重罰化は、犯罪学の分野では犯罪対策として効果がないというのが定説になっている。
 イギリス内務省の行った調査では、監視カメラについて駐車場をのぞいてその他の場所では効果がない。その一方では、街灯は犯罪防止に効果がある。これが最も科学的に厳密な調査をおこない、それを分析して出てきた結論である(まもなく詳細な報告書が出る)。 警察官を増やせば、間違いなく検挙人数は増えるので、犯罪は増えたと認識される。刑務所はますます溢れる。
 こういう悪循環がアメリカでは既に起きている。現在の状況では、財務省は、警察官の増員は認め、教員の増員は全部却下したという。根本的解決の方が減って、効果のない対処療法的なものが増えている、と私は認識している。

ぽちっとな 

*1:カマヤン注釈;刑事警察出身で警察庁長官になったのは、この金沢長官と、狙撃された国松長官くらいなもので、残りは歴代、公安警察出身である。公安警察予算を削ろうとしたのは唯一、狙撃された国松長官だけである。