アルキヘンロズカン感想
1
『アルキヘンロズカン』上下。深夜に一人没頭して読んだ。売れない漫画家が四国遍路を暗めの自己観察と遍路観察をしたもの。お遍路さんのマイナス要素を大仰でなく、けれん味なく、リアルに描き出すことで、確かにこれを歩き通すと何かが変わりそうな気がしてくる。歩く気ないけど。実に面白かった。
— 紙屋高雪さん (@kamiyakousetsu) 7月 8, 2012
↑このツイートを見て、アマゾンをクリックした。届いた。読了した。良いマンガだ。涙滲んだ。 / “Amazon.co.jp: アルキヘンロズカン(上) (アクションコミックス): しま たけひと: 本” htn.to/7BHFFd
— カマヤンさん (@kamayan1192) 7月 9, 2012
読んだ。ものすげえ面白かった。とりあえずブログに書いた。http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20120709/1341843296
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今から12年くらい前、この作者と同じ年齢くらいの頃、マンガ業を畳んで一度田舎に戻っていて、あんまりに老母との生活が苦しすぎて、お遍路に行こうかと思っていた時期があった。そんなこともあり、ものすげえ共感した。
このマンガによると、その頃、お遍路はブームだったらしい。そうだったのか。
3
マンガ家的視点でこのマンガを読み解いてみる。女性主人公と男性主人公に分けたのは正解。男性主人公はマンガ家を断念しようかどうしようかという葛藤を主軸としている。これはこれでいいストーリーだ。同行している幽霊たちも、一読目は今一気づかなかったが、再読すると、すげえいい味が出ている。
女性主人公の方は、筆者が、自分を突き放して描いている。私がマンガを描いていた時のささやかな経験では、最も語りにくい事柄を描くときに、主人公を異性化する。作者の経験のうち、ストレートには描きにくい事柄と、遍路中の伝聞から紡いだキャラが女性主人公だと思われる。
上巻はマンガ家としてのアイデンティティに関わる苦悩を中心として、男性主人公にやや力が注がれて描かれている。それはそれで実に面白い。
下巻はどちらかというと女性主人公に力点がかかっている。http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20120709/1341843296にメモしたように、「21番 幽霊」のエピソードは、すげえいい。逆に、俺、こういう話が好きだったのかと再発見した。たぶんこの21番の話は、筆者が他の遍路から聞いたのを内的に熟成させて描いたのだろうと思われるが、怪異譚の短編として、人情話として、たいへん完成度が高い。
4
「もったいないな」というか、もっと発展できたんじゃないかというか、伏線回収ができてないんじゃないの、というキャラが何人かいて、私の読み込みが甘いのかもしれないけど、「4番 四国の昔話1」の狐キャラは実に立っているので、どこかでこの話の回収をしてほしかった。…コミックス用の描き足しなのかなあ。女性主人公の「おばあさん」がその転生なのかなあ… かむろ屋の女将がそうなのかな… ここに繋がりがあるとしたら、ちと読み取りにくいし収まりが悪い。
「リオ(メイドカフェのバイトの娘)」はもうちょっとキャラの掘り下げがあってほしかった。別な言い方をすると、女性主人公に割り振ったエピソードのうち一つか二つくらいをリオに割り振ると、存在感が増したと思う。比較的冒頭に登場するキャラのわりに活躍せず、背景もわずかにしか語られないので、たぶん筆者が実際に「ほんの少しだけ」関わったお遍路さんがモデルなのかなあ、という気がするが、マンガ全体の中でのキャラとしては、女性主人公に次ぐくらいの重みがあってしかるべきだったと思う。
「9番 納経所」に登場する「バイト」さんは、女性主人公が連絡先を受け取っている以上、後半で一度は何かの形でストーリーに関わるべきだったと思う。コミックス化した時に削除されたのかもしれないけど。…下巻75pの声を彼にさせれば良かったんじゃないかな。
5
作者のHP http://kunitu.sakura.ne.jp/houboku.htm
■この漫画はフィクションですが■ 漫画家が一生の内で一回だけ使えるネタで 描いた漫画だと思います。
漫画の目的は 「娯楽として他人に何らかの影響を与えること」 エロ漫画ならムラムラさせること ギャグ漫画なら笑わせること アクション漫画なら血沸き肉躍らせること
みっともない話しですがこの漫画は いい年した中年のおっさんが 夜な夜な机に向かって泣きながら描いた漫画なので もし、これを読んでくれて 大なり小なり、伝わるものがありましたら 独り悶々とこれを描いた甲斐があるというものです。
兎にも角にも 是非ご一読いただけますと幸いです
ネタとしては一生に一度のネタだろうけど、なんちゅうか、藤子不二雄がオバQを描いた時に感じたという何かのように、作者にとっての指針がこの作品によって生まれたんじゃないかと思う。変奏曲は色々作れそうだから、作ってほしいと思う。
…俺も『偽善者』の変奏曲を描いていたら、マンガ家を続けられていたかな… マンガ家を続けていたら今の嫁と結婚せず、今から生まれ来る子供も設けなかったか… という妄想が脳内をよぎったが、それへの回答はこのマンガの上巻92pにある。このセリフは凄い。
それと、作者のHPには作者のエロマンガについての情報が欠けているので、エロマンガについての情報がほしい。エロ以外のこの作品以外のマンガについての情報は、なんつうか、もりしげくんがもりしげくんになる以前に描いていた作品の窮屈さをちょっと連想する。というかこの作者が描いていたエロマンガはロリなアレだそうだから一度読んでみたいと思うんだが。
6
お遍路行きたいなあ。子供が生まれたら2〜3年は行けないな。…50歳までに一度行きたいな。こんなに良いガイドブックが手に入ったことだし。
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