カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記

田舎の生活とか、政治関係とか、表現規制のこととか、狂乱している老母との生活とか

江村洋『カール五世』

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江村洋ハプスブルク家』を再読して、良い本だな、良い執筆者だな、と思い、ドイツ30年戦争http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20140303/1393857546に時代の近いカール5世の評伝も書いていると知り、購入、読了。
文章は奇を衒うことなく、簡明で判り易い。神聖ローマ帝国皇帝とスペイン王を兼ねた人物、という時点で下手な記述をされると丸っきり置いてきぼりにされてしまいそうなのだが、そこは簡潔かつ丁寧に説明してあり、躓くことがない。読者を躓かせないというのは筆者の力量であり、読者への優しさでもある。

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カール5世は1500年生まれ、1558年没。日本で言うと山本勘助や毛利元親とだいたい同時代人だ。
ルネサンスのネーデルランドに生まれ、新大陸発見直後のスペイン王となり、宗教改革勃発時の神聖ローマ皇帝であった、当時の欧州政治の中ではバカ正直と言えるほど誠実な人柄のカール5世の評伝だ。
この時代は一種の「戦国時代」だった。カール5世最大の敵の一人は、当時最も中央集権化が進んでいた大国フランスの王だった。
カトリックであるフランス王はカール5世と対抗するため、オスマントルコと同盟し、ドイツのプロテスタントを後援した。カール5世の勢力伸長を最も嫌ったのは、フランス王と歴代ローマ教皇だった。フランス王は世俗での最大のライバルであり、ローマ教皇キリスト教世界での最大のライバルだった。

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神聖ローマ帝国皇帝にしてスペイン王であるカール5世は、もう一息でヨーロッパを統一できた人物だ。機敏に反応していれば、宗教改革を未然に防げた人物だ。ルターが登場した瞬間に、もしも牢獄に監禁していたら、宗教改革は未然に終わった。
カール5世は、当時の腐敗していた教皇たちなんぞよりずっと敬虔で寛容な人物だった。もしも教皇たちがもっとマシな人物だったら宗教改革も流産しカール5世による統一もあり得たかもしれない。などと思った。ローマ教会は、歴代、腐敗した教皇を輩出していた(カール5世が生まれたときの教皇チェーザレ・ボルジア父親アレクサンデル6世であり、カール5世が皇帝になった時の教皇メディチ家のレオ10世である)。カトリック擁護のために奮闘したカール5世の足を常に引っ張り続け暗躍したのは歴代ローマ教皇だ。新教徒となるドイツ人たちネーデルランド人たちはローマ教皇・ローマ教会の腐敗ぶり偽善ぶりに心底辟易していた。
当時、オスマントルコ帝国が神聖ローマ帝国国境に迫っていた。もしもカール5世が宗教改革の芽を摘んでいたら、少なくとも後のドイツ30年戦争は発生せず、ウェストファリア条約は生まれず、「信教の自由」「思想の自由」という「価値」は世界史に登場しなかった。ヨーロッパ世界は、せいぜいイスラム教的寛容さを限界値とした思想地域となったかもしれない。ローマ教会に辟易していたドイツ人がイスラム化したかもしれない。より新鮮な宗教的情熱を維持していたであろうイスラムとの競争にキリスト教世界は敗れたかもしれない。
カール5世が統一できなかったことにより、欧州の「戦国時代」は続き、この一世代後に「軍事革命」が生まれる。カール5世がもし統一していたら、「軍事革命」も流産していたかもしれない。となると当時の文明間の競争で欧州が覇者となった条件が欠けることとなる。してみるとカール五世の挫折は、欧州が世界制覇するための条件だったかもしれない。

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カール5世が、エラスムス的寛容さを示したため、ルターはゼクセン選帝侯ヨーハン・フリードリヒに匿われ、ドイツに新教が広がる。これを食い止めるためカール5世は公会議召集を教皇に依頼するが、教皇は難癖をつけてそれを拒絶する。
カール5世は一度はフランス王を捕虜とする。この時、ヨーロッパが統一される最大の好機だった。カール5世は騎士道精神からフランス王を放す。放された瞬間、フランス王はカール5世との条約を反故にする。
新教の軍事的リーダー、鈍重なゼクセン選帝侯ヨーハン・フリードリヒと性急なヘッセン方伯フィリップを、カール5世の野心的な寵臣ザクセン公モーリッツは破る。だがゼクセン選帝侯ヨーハン・フリードリヒとヘッセン方伯フィリップはザクセン公モーリッツの縁者でもあった。この二人に対し、カール5世は珍しく寛容さを示さなかった。ゼクセン選帝侯ヨーハン・フリードリヒの没落によりザクセン公モーリッツは地位を得たが、ヘッセン方伯フィリップが解放されないことはザクセン公モーリッツにとり領民からの不信の元であり、遺恨となった。ザクセン公モーリッツがカール5世を裏切ることで、カール5世の新教徒との戦いは敗北に終わる。

ハプスブルク家 (講談社現代新書)

ハプスブルク家 (講談社現代新書)

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文章は簡明で乱れがなく、良質な歴史小説を読み終えたような読後感だった。

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ところで、河口湖漁業組合は滅ぼすべきである。カルタゴは滅ぼすべきである。

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