カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記

表現規制反対活動を昔していた。元エロマンガ家。元塾講師。現在は田舎で引きこもりに似た何か。

「民主党は労組を切れ」論について

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日本は最も基本的な事柄、最も重要な事柄については、口を噤むという悪癖が昔から蔓延している。
その悪癖に一矢報いたい、と感じる人は、隣席の人と喧嘩したい、相互にいがみ合いたい、という欲情にわりと簡単に負けるという悪癖もある。
と、一番基本的なことを書いておいて。

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「俗論」という言葉は、全然事実や根拠に根差していないけど、なぜか人口に膾炙していて、特定の話題が出ると機械的に「これが気が利いた返答だ」というテンプレートに沿って出される言説だ。
たいがいの場合、「俗論」は特定既得権益層を利するために作られた「加工世論」「人造世論」であり、東アジア社会では紀元前後の新王朝時代に「王莽は天命を得ている、王莽を皇帝にすべきだ」という「世論」が作られたり、近代になっても中華民国初期に袁世凱が大統領職では飽き足らず皇帝になろうとして「中華人民には共和政は向かない、袁世凱を皇帝にしよう」という「世論」を捏造した、みたいな感じでしょっちゅう作られているものだ。
今のはちょっと筆が滑ったというか変に拡大しすぎたので、適当に流せ。

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で、「民主党は労組(日本労働組合連合会)を切れ」という「俗論」は継続的にしつっこく出てくる。わりと最近の例では橋下徹がそれのしつっこいスピーカーだ。
この「俗論」は半分の真実というか説得力はある。
たいがいの民主党支部は実質その県の連合支部、労組支部だ。労組もたしかに十分既得権益集団化していて、たいがいの「民主党支部(県本部)」の看板を掲げているところは腐れた労組がテキトーにやっていて、熱意のある非労組民主党支持者が問い合わせたら拒絶するような体質を持っている。
webで有名になった例としては、http://ninosan.hateblo.jp/entry/2014/11/27/202139
俺も個人的経験として千葉県民主党(という看板を掲げたところ)の対応にゲンナリしたことはある。
労組系・連合系としては、「意欲がある非労組系の民主党支持者」なんぞ来たら計算が狂ったり自分らの価値が相対的に下がったりするから極力排斥したいのだろうな、とは思う。
とはいえこういうのって、選挙区事情によって全然違っていて、個人的に知っているところだと東京22区はそんなに非労組系支持者に冷たくはない。

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で、選挙には「基礎票」というのがあって、全国で見ると
自民党基礎票 1760万票
民主党基礎票  970万票
前回2014年総選挙の比例区票を元に見ると、上記がだいたい基礎票だ。前回総選挙では浮動票はほとんど自民にも民主にも流れていない。
民主党の支持基盤の連合(日本労働組合連合会)の構成員数は、だいたい670万人くらい。
なので、前回2014年選挙では労組以外で民主党に投票した人間の数は、(連合が100%民主党へ投票したと仮定して)比例区で200万人くらい、小選挙区で500万人くらい。
仮に民主党が「労組を切って」、労組の票が民主党に一切流れないと仮定すると、民主党の得票は比例区で200万人くらい、小選挙区で500万人くらいだから、だいたい現在の社民党の得票数くらいになる。100年経っても政権交代は起きなくなる。

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「浮動票・無党派層の票が選挙結果を決める」とよく言われているのは嘘ではなくて、この基礎票に浮動票・無党派層の票がどのくらい上乗せされるか、によって選挙の勝敗と議席は決まる。
政権交代に至った2009年の総選挙での比例区票数を見ると
自民党得票 1880万票
民主党得票 2980万票
という感じで、自民党の得票は2014年も2009年もあまり変わらない。(というか、「大勝」した2014年の方が少し減っている)
維新は組織のない政党で浮動票・無党派票に近似していると思うが、その票数は2014年比例票で800万票、2012年の比例票で1200万票。
野田佳彦解散した時の2012年比例票で見ると、維新+未来で1560万票になる。政権交代した2009年の場合、大雑把に言ってこの票+民主党基礎票970万(そのうち約670万票が労組票)+選挙に行ったりいかなかったりする浮動票約450万票が民主党に加算された。仮にここから労組票670万を引くと、足し算では一応2009年では政権交代に届くが、危ういよね。「民主党は労組を切れ」論は「民主党政権交代能力を持つな」という意味だと俺は理解している。

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で、たしかに労組が「民主党」の看板を各地域で掲げているのは上記の通り非労組系民主党支持者をしばしば排斥するというデメリットがある。
対策としては、各候補が、非労組系の強力な支持組織を自前で作る必要がある。各候補の後援会と言ってもいい。現在の非労組系民主党支持者人数は、2014年選挙時の比例区票から推定して約200万人しかいない。二大政党制を成立させるには1000万から1200万人の非労組系民主党支持組織(後援会票)が必要だ。

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ところで不思議なことに、俺が90年代末から2000年代初め頃、民主党本部での勉強会にちょこちょこ顔を出していた頃、
「後援会というのは悪であるから作るべきではない、そういう芽は排除すべきだし、検討に値しない」
みたいなのが、民主党の勉強会に参加していた若手民主党候補とかその周辺の人たちの共通認識だった。
俺には意味が全然判んなかったし今も判らんのだが、なんか政治学上そういう「常識」があるんですか? 個人後援会を作らないでどう勝つつもりなんですかあの人たちは。
後援会は利権化しやすいから作る際気をつけるべきであるとか、しがらみ化しないようにこういうルールを作るべきである、という文脈には少しも聞こえなかったんですけど、なんだったんだろうあれは。

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俺が民主党を支持するきっかけになった枝野幸男さんは「後援会」を作らないで「ボランティア集団」を作ったので、それが民主党内で一般的なのかと最初は思ったんだが、すげえ例外的だったとその後判った。じゃあ例外的だとしても、それをモデルとしてそういうタイプの「ボランティア後援会」を各候補が作るよう方向づけるべきじゃないか、と思ったのだが、どうもあまりそうならない。

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どんな後援会を作るにせよ、選挙は選挙区単位で行われるのだから、選挙区に何代も前から住んでいて選挙区内でブランド化していて親族や関係者の多い世襲議員のほうが有利なのは当然でありまして。
民主党になってから増えた落下傘候補は、その世襲利権に与っていない人たちを組織化後援会化するのが当然に使命だと、少なくとも二大政党制とか言うのなら使命だと、俺は思うんだが、どうもそういう組織化に成功している例はレアケースなような。
非労組系民主党後援会を作るには、候補者のキャラと、その応援をしようという積極的な選挙区内住人という組み合わせが必要であり、そんな恵まれた組み合わせは滅多にないだろうなとは思う。とはいえ、その組み合わせがないのなら、日本には二大政党制なんてものの基盤がそもそも存在しないのであって。存在しないだろうと思うけど。

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でまあ、政権交代が起きる前なら「夢」を売って支持を取り付けることはできただろうけど、2009年から2012年に至る民主党政権で、マニュフェストに書いてないことばかりゴリゴリ進めてしまったのはなぜなのかと、民主党政権に期待した人たちにしょっぱい思いをさせたことへの説得力ある弁明があってほしいと俺は思うんだが、どうなんだろうね。日本に二大政党制の基盤なんて存在するのかな。

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以下は議員定数と区割について、前自民党議員の述べた最も基本的な情報。http://blogos.com/article/102655/ こういう基本情報が最も重要で、こういう情報が広く広報されるべきなのだが、なぜか全くそうならない。

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