「陰謀論」の系譜
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ブッシュが政権とって以来、世界政治も日本政治もいかがわしい情報操作だらけになりました。マスコミ(ていうか主に新聞・テレビ――記者クラブ――の報道)が流す情報には違和感だらけになりました。マスコミ(記者クラブ)が流す情報と実際は違うはずだ、と考えました。なぜそのような情報隠蔽・情報工作がなされるのかについて色んな仮説が頭の中で疾走しました。脳内で疾走する仮説は、引いて見ると「陰謀論」ではありますが、虚偽な報道に接したときは、自分の脳内渦巻く「陰謀論」のほうが説得力を持ちます。
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思うに、「日本会議」や「日本青年社」が勢いある時期はマスコミ(記者クラブ)はとくに嘘をつき、「日本会議」「日本青年社」に勢いのない時期は嘘をつく量が少ないのだね。しかしなぜ報道は「日本会議」「日本青年社」「住吉会」「キリストの幕屋」「神社本庁」などの名前をそんなに一生懸命隠すのですかね。「住吉会」は少しは報道で語られるようになったけど、「日本青年社」が住吉会のダミーであり、住吉会のダミーである日本青年社が「救う会」を牛耳っていることとか、右翼団体「日本会議」が「救う会」の実体だと言うことをなぜそんなにテレビ・新聞の報道は隠すのだろうね。
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さて、「日本会議」「日本青年社」「キリストの幕屋」などの知識がなかった頃、つい三年ほど前のことだが、あまりに報道が信用ならないから、自分で日本現代史の勉強をはじめた。その当時起きていた奇怪な事件…たとえば奉天での脱北者事件、あるいは世田谷一家殺害事件、プチエンジェル事件&辻元清美潰し、安倍晋三が岸信介の孫だという情報を隠蔽されたまま女性週刊誌やワイドショーで奇怪なヨイショをされていたこと、「(偽)ブルーリボン」といういかがわしい「運動」、などなどの奇怪な事柄、当時から2chに集団的・集中的に「工作」しはじめた「誰か」(「生長の家」の信者が書き込んでいることは、自分自身が2chでやりとりした結果判明した)、これらに共通する要素は、十五年戦争での、とくに満州鉄道あたりに鍵がありそうだ、と、私は当たりをつけていた。私は日本現代史について全く当時無知だった。第2次世界大戦で、日本がアメリカに戦争をふっかけたのは、なぜなのか、誰の決断だったのか、といったことは長年不思議に思っていたが、知識を持っていなかった。
ので、某大学にニセ学生して日本現代史を勉強しなおした。どうにか大学二年生程度の知識を得ることができた。
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で、自分の脳内に「陰謀論」があるがこれを確かめる方法がない、どうしたものだろう、もっと情報があれば…と、ずいぶん悩んでいましたが、日本現代史勉強する過程で、『細川日記』*1と、その中に収録されている近衛文麿の「近衛上奏文」というのに接しました。
近衛文麿は元首相で、当時の日本の最高度の情報が近衛の元に集りました。しかしながら近衛は強い思い込みから「近衛上奏文」という奇怪な「陰謀論」を天皇に上奏しました。この上奏文には戦後の首相吉田茂も執筆に関わってました。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/study/1274/1025166092/136-140
「近衛上奏文」論旨
1;日本の敗戦は必至だ。
2;憂慮すべきは敗戦よりも、敗戦に伴なって起きる共産革命だ。
3;共産革命の条件は揃っている。生活の窮乏、労働者発言権増大、英米への敵愾心高揚の反面として親ソ気分、軍部内の革新運動、新官僚の運動。とくに憂慮すべきは軍部内の革新運動だ〔カマヤン注;具体的には統制派を指すようだ〕。
4;少壮軍人は国体〔天皇制〕と共産主義は両立すると信じている〔北一輝の論などを指すか?〕。皇族にもこの主張に耳を傾ける方がいる。〔秩父宮(昭和天皇の弟)のことか?〕
5;満州事変・支那事変を起こし拡大し、大東亜戦争に導いたのは、軍部内の計画による〔実際には軍部内主導権はリレー状に、あるいは玉突き的にバトンタッチされ、一貫した計画が成立したわけではない〕。満州事変の時、彼らが事変の目的は国内革新にあると公言したのは有名な事実だ。
6;いわゆる右翼は、国体の衣を着けた共産主義者だ。
7;一億玉砕を叫ぶのは、これによって国内を混乱させ、革命の目的を達そうとする共産分子だ。
8;戦争終結の最大の障害は、満州事変以来今日の事態まで時局を推進してきた軍部内の「かの一味」〔具体的には統制派のことらしい〕だ。
出典;『外交資料 近代日本の膨張と侵略』(新日本出版社、1997年)380-383pより抜粋構成*2。
えとですね、日本で最も上等な情報を集めた人間ですらこういう「陰謀論(しかも明らかに間違っている)」に辿りつくのならですね、私のように底辺で情報集めている人間の結論が「陰謀論」っぽくなっちゃうのはやむなしだと思います。かつ、この「近衛上奏文」執筆に関わった吉田茂・殖田俊吉らが戦後政治の主流になるわけですから、戦後保守政治の根幹に「陰謀論世界観」が横たわったわけでして。
私の興味の本質は「人は何故そのように信じるに至ったか」「人は何故そのように思い込むに至ったか」という点にあります。ネット右翼たちが信じ、2chなどでしばしば奇怪な展開をさせる「共産主義による陰謀論」の源流の一つは「近衛上奏文」世界観なのだな、と、判ったとき、ずいぶん腑に落ちました。
「近衛上奏文」自体の研究はあまり進んでいないそうではありますが。
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ついでなので、日本現代史を勉強して判ったことを述べてみる。
太平洋戦争は日中戦争の延長として発生した。合わせて十五年戦争という。十五年戦争最大の戦犯は近衛文麿だ。近衛文麿は当時最高のインテリの一人だが、日本史上最悪のヘタレだ。豆腐滓のような根性無しだ。近衛文麿というヘタレが長い期間首相をしていたりしなければ、十五年戦争は発生しなかったかもしれないし、少なくとももっと短い期間で終わっていた。
昭和天皇は十五年戦争中、戦争の経緯を誰よりも詳しく知っていた。近衛文麿は自分自身が首相のときに昭和天皇をないがしろにして政治をしていたから、昭和天皇は太平洋戦争推移を東条内閣から知らされてないはずだ、という強い思い込みを持っていた。が、東条英機は非常にマメに昭和天皇に太平洋戦争推移を報告し、戦争遂行において昭和天皇の意思を可能な限り反映させようとした。昭和天皇は80年代まで思われていたより、遥かに深く十五年戦争に関わっていた。*3
昭和天皇無謬説は、アメリカの統治政策と日本の「宮中グループ」・旧海軍グループの合作によって作られた。そこで重要な働きをした一人は、迫水久常だ。迫水久常は、海軍大将・元首相の岡田啓介の娘婿だ。「聖断神話」は、迫水久常たちが「宣伝」した。戦後日本での「昭和天皇論」の多くは、迫水久常とボナ・フェラーズらによる情報工作に強く影響され、縛られている。*4
*1: 細川日記 上 改版 中公文庫 B 1-35 BIBLIO20世紀
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