『チョムスキー、民意と人権を語る』
『チョムスキー、民意と人権を語る』読了。
チョムスキー、民意と人権を語る―レイコ突撃インタビュー (集英社新書)
- 作者: ノームチョムスキー,Noam Chomsky,鈴木主税
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/11
- メディア: 新書
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〔アメリカの〕犯罪発生率は高いとはいえ、銃による殺人―アメリカの銃所持法の投影である―を別にすれば、〔アメリカの犯罪率は〕工業国の水準からかけ離れているわけではない。しかし、犯罪への恐怖を抱いている人は非常に多く、ますます増えつつある。それ〔恐怖感〕は主として、「犯罪そのものとほとんど関係がないか、まったく関係のないさまざまな要因から生じるもの」であると、国家刑事司法委員会は(他の調査と同様に)結論づけている。その要因には、メディアの活動や「市民の恐怖をかきたてる政府や民間企業の役割」が含まれる。
犯罪者として取り上げられる対象はきわめてかぎられている。たとえばスラム街の麻薬常習者であり、重役室の犯罪者は取り上げられないのだ。だが司法省の推定では、企業犯罪による損害額は路上犯罪の七倍から二五倍にものぼる。労働に関係する死者数も殺人の犠牲者数よりもはるかに多い。(153−154p)
また、この手段によって国民全体を怯えさせることもできる。これは人々を服従させるためによく使われる手段である。このような政策は、富を極度に集中させる一方で、国民の大多数の生活状態や収入を停滞させるか低下させるのに大いに役立つ。(155p)
犯罪統制産業は刑務所の労働力を利用する新たな機会を企業に提供している。(156p)
以上は日本の「凶悪犯罪」報道にも示唆を与える。つまりより社会的に重要で深刻な事柄から意識を逸らさせ、より重要な事件に割くべき紙面と報道時間を相対的に減らすためにある種の凶悪犯罪報道は洪水報道される。
たとえば今だと、ヒューザーと自民党伊藤公介議員の関係、そこから後ろに深く連なる与党の犯罪だ。
あるいはアメリカ狂牛輸入再開により、日本人を狂牛病にする決定を小泉が下したことだ。
あるいはアメリカ軍下請け日本軍が下請け軍・植民地軍としていっそう増強されたことだ。
これらより重要な報道に割く紙面と時間を相対的に減らさせるために、広島や栃木で起きた、さほど重要でない小学生殺人事件が過剰報道されている。小学生殺人事件の情報が、報道される紙面と時間の割りにいつも必要以上に小出しなのは(報道させたがるくせに警察からの情報が小出しなのは)、他の報道を相対的に減らすため、という目的・からくりがあるのだ。つまり読者を焦らさせ、下種な興味喚起を行ない、さほど重要でない事件にもかかわらず相対的に報道時間を伸ばし、ついでにそれが、警察がより生活に介入する口実となるという自作自演構造だ。
以下はメディアと「本当の世論」のズレについて。
アメリカが〔京都議定書批准に〕反対しているとよく言われますが、事実とは異なります。抵抗しているのはアメリカ政府なのですから。国民のおよそ四分の三は、京都議定書を支持しています。そのうえ、ブッシュに投票した人の半数以上は、大統領が〔京都議定書に〕署名するつもりだと信じているのです。(36p)
他にもアメリカ特有の事例は山ほどあるのですが、そこに表象されているのは、政党やメディアが本当の世論より、はるかに右に寄っているという図式です。京都議定書はほんの一つの事例にすぎませんが、実際、人びとは情報システムにミスリードされるので、ひいきの候補者が彼らの姿勢とはっきり対立していても、味方であることを疑っていません。〔略〕だから正確に言えば、京都議定書に反対しているのはアメリカ政府であり、アメリカ国民ではないのです。(37p)