カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記

表現規制反対活動を昔していた。元エロマンガ家。元塾講師。現在は田舎で引きこもりに似た何か。

ある母子家庭の少年

1

現在小4、春から小5になる男児が、塾を2週休んだ。連絡したところ、宿題が多くて勉強が辛いので塾をやめたいと本人が言い出している、とのことだった。少年と母親と面談した。
少年の家庭はどういう事情でなのか知らないが父親がいない。離婚したのだろうと想像する。母親と祖母と少年の三人家族だ。母親は泊り込みの仕事をしていて、月の三分の二不在になる。
半年前までは母方の祖父がいた。祖父は厳しい人だったが、少年は祖父を敬愛していた。少年が塾へ行きたいと言い出したとき、祖父がうちの塾を選んだ。
祖父が亡くなってから少年の精神は不安定になった。
母親は自分自身が中学受験経験者で、父親に厳しく接された。その経験が母親を支えている。それを息子へ再現しようとしている。そのため母親は少年へ厳しく接することが多い。
人格形成期・思春期の男の子は、身近に「成人男性」のモデルを必要とする。モデルとなるべき祖父が不在となったため、少年は不安定になった。
異性親は異性の子供のことを根本のところで理解できない。異性の子供は異性親を根本のところで理解できない。理解できない部分が存在するということに少なくとも親の方が自覚的にならないとよろしくない、と、母親に伝えた。
「ブリーフからトランクスに買い与えるものを変えただけで機嫌が直ったんですよ。全然理解できない」と母親は笑った。

2

以前、「姫」http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20060603#1149268934 http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20070209#1170956791が6年生になったばかりのとき、「姫」から以下の質問をされたことがあった。
「大人の男性はあんなに格好いいのに、どうして同年代の男の子はあんなに格好悪いのか」
私はこう答えた。
「女の人はだいたい16歳で身体が成人になる。だから君たちは現在、11/16大人になっている。男はだいたい25歳まで身体が成長する。だから男児は現在11/25しか大人になっていない。だから君たちが同年代の男の子を見ると幼く見えるんだ」
女児は自分自身が意識するよりも早く否応なく身体が成人化する。身体が「女」になってしまう。これは女性にとって重大な事柄であり、よって少女マンガでもこのモチーフが繰り返される。

3

男児は成人化する過程で、身近に「成人男性」のモデルを必要とする。男児は「『男』になろう」と意識して、「男」になる。身体の変化は遅くまた女性ほどには激変しないので、精神を変化させようとする。その過程でモデルを要する。伝統社会では「男はこうであるべき」としばしば男児ジェンダー的要請をする。これは「男(成人)になろう」とするのを助ける作業でもある。
男児は成人化の過程で、社会が自分にどこまでを許容するのかの距離を測ろうとする。社会規範を確認しようとするという言い方をしてもいい。モデルとなる成人男性が近くにいて、その成人男性の人格が安定している場合、この過程は比較的スムースに進む。この社会規範確認作業、社会が自分をどこまで許容するかの距離確認作業に失敗すると、ダメ人間になる。バカボンバカボンに育ってしまうのは、この確認作業過程が「親の権力」「親の七光り」によって全壊してしまうからだ。
この少年の場合、祖父がモデルとなる成人男性として身近にいた間は安定していた。少年の思春期・人格形成期は今からが本番であり、その時期にモデルを喪失したのは当人にとってきつい。少年が「塾をやめたい」「受験勉強をやめたい」と言い出したのは、一つには社会規範確認作業をしていると言える。
うちの塾は「体育会系」と評されていて、合理性を欠き、男臭い性格を持っている。それは欠点なのだが、少年の祖父がうちの塾を選んだ理由はその「男臭い」ところにあるだろうと思われた。
「塾をやめたいと言ったけど、この塾を選んだのはどなたでしたっけ?」と私は少年に尋ねた。
「祖父です」と母親が答えた。少年に答えさせたかった。私は少年の目を覗きこんだ。
「そうですね、おじいさまがこの塾を選んだのですね、だからこの塾はおじいさまから君へのお土産なんだよ。それを捨ててしまっていいのかな? よく考えてみなさい」と少年に言った。
受験までの残り2年間、この少年は色々苦労するだろうと思う。父親が果たす役割の何分の一かでも我々が果たせればいいと思う。

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