カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記

表現規制反対活動を昔していた。元エロマンガ家。元塾講師。現在は田舎で引きこもりに似た何か。

『わが国における自主防衛とその潜在能力について』

原子力発電所が、潜在的核兵器開発能力維持のために存在していることを示す国会質疑。以下、長文だが、資料としてここにアップする。

http://kokkai.ndl.go.jp/
94-参-決算委員会-5号 昭和56年03月30日

○理事(佐藤三吾君) 午前に引き続き、昭和五十二年度決算外二件を議題とし、外務省及び防衛庁の決算について審査を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。

○野田哲君 まず、外務省の国連関係の問題についてお伺いいたしたいと思います。
 昨年一九八〇年の国連の第三十五回総会におきまして、ワルトハイム事務総長から核兵器に関する報告が行われております。この報告の中で、三百七十五項の日本に関する部分が記述されておりますが、この三百七十五項の日本に関する部分を、ちょっと国連の担当の方で読み上げていただきたいと思うんです。

○政府委員(賀陽治憲君) お答えをいたします。
 ただいま野田委員の御指摘の点でございますが、御質問の点は広島、長崎に関する記述というふうに拝聴しております。広島、長崎における原爆投下による焼死者数に関し、両市長報告というのがございまして、一九四五年十五万人、五〇年二十万人死亡等が記述されておりますが、これが引用されておりまするとともに、核兵器保有に至らなかった事例として、わが国の例が挙げられまして、わが国の核兵器に対する国民感情等について記述されている部分と了解しております。

○野田哲君 いまの部分で、こういうふうに書いてありますね。
 一九七六年の核拡散防止条約の批准に先立つ国民的論議の中で、もし日本が核兵器を取得した場合には、日本の安全保障は強化されないだろうという多くの理由によるコンセンサスが存在をしていることが明らかであったと。それで、五つの理由を挙げています。
 まず一つは、日本の場合、人口が過密であるために、日本は核攻撃に対して非常に脆弱である、それから、二番目に、核兵器は日本が持つ場合にはそれゆえ中程度の能力のもの、すなわち、しっかりと防護されて、高度の通信と支援のシステムを含めたものが必要である。それから三番目には、その費用は非常に高くなる。四番目には、そのような兵器の開発はその上に長いリードタイムを要する。それから五番目には、完成のときまでには兵器工場は高度なシステムが必要になっているかもしれない、こういう見通しもあった。こういうくだりがあると思うんです。もっとも、英語ですから、私の方が正しいかどうか。趣旨としてそういう趣旨があると思うんですが、その点いかがですか。

○政府委員(賀陽治憲君) ただいま野田委員の御指摘になられました部分は、非常に正確に表現されたわけでございますが、三百七十五項にございます。

○野田哲君 そういう表現が日本に関する部分で、国連の報告の中にあるということは、日本において核兵器の開発について、かなり具体的な検討が行われた、そういうバックグラウンドがあって、この事務総長の報告の中にその記述がされているんだ、こういうふうに思えるわけです。日本で核兵器の開発について何らのバックグラウンドがない状態の中で、こういう記述が出るはずはないと思うんですが、そのバックグラウンドについては、どういうバックグラウンドがあったのか、国連局長御存じですか。

○政府委員(賀陽治憲君) ただいま御指摘の点でございますが、この専門家グループは、専門家が個人として出席をしております、専門家の数は十二名でございますが、わが国からは、当時まだ民町におられまして、現在クウェート大使でございますところの今井さんが出席をされておるわけでございます。
 私もこの報告の作成過程におきまして、お話を伺ったこともございますが、この報告書は二つの部分から成りまして、一つは、やはり客観的事実を正確に把握するということ、一つは政策論的な部分、このように分かれておるわけでございますが、これは私が完全にあらゆるセッションをフォローしておりませんので、あらゆるセッションについてどういうことであったかということを申し上げる立場にないわけでございますが、今井さんが、特に原子力の技術的な専門家であられたという方が、非常にうんちくを持っておられたということは事実でございますので、その立場から、今井さんからもお話がございましたでしょうし、あるいは専門家委員会でございますので、専門家の委員会としてのスタッフが各国についていろいろな調査をしたということはあると存じております。

○野田哲君 専門家部会で日本からは現在クウェート大使をやっている今井隆吉さんが参加をしたということで、したがって、いまの記述は今井さんがこの専門家会議の中での日本を代表しての参加、こういう中で書かれているということだと思うんです。
 そこで、ざらにお伺いをしたいと思うんですが、昨年の夏にアメリカの上院の外交委員会の報告書が発表されております。これはむしろ外務省よりも防衛庁の方がフォローされているんじゃないかと思うんですが、この外交委員会の報告書によりますと、日本が核武装に踏み切る可能性として四つの条件を挙げております。まず第一は、中ソ間の軍事紛争が発展をして、ソ連が日本を中国の同盟国とみなして、日本への軍事圧力を強化をした場合、二番目には、アメリカのアジア政策が変化をして、極東の安全保障に空白を生じた場合、三番目には、朝鮮半島で大規模な軍事衝突が発生した場合、四番目は、韓国、台湾が核武装に踏み切った場合、こういう点を挙げて、こういう状態が起これば、日本は核兵器の開発に踏み切るのではないかと、こういうふうにアメリカの上院の外交委員会の報告書は述べていると思うんです。この点は間違いないですね。防衛庁の方で承知されておりますか。

○政府委員(岡崎久彦君) 突然の御質問でございますので、私、資料は持っておりませんけれども、たしか昨年提出されましたグレン報告、グレン報告という名前になっておりますけれども、これは実はグレンも上院もあるいは軍縮管理局も自分の責任のない紙であるとはっきり言っている紙でございますけれども、その報告書の中に、日本が急速に防衛力を増強するとすれば、そのような条件があるのではないかといった条件と、いま先生が御指摘の条件がかなり合致しているように私は記憶しております。

○野田哲君 さらに総合研究開発機構というのがありますが、この中で「二十一世紀への課題」という最終報告書がされているわけですが、この中で「国際環境の変化と日本の対応。二十一世紀への提言」、こういう項があるわけです。それによりますと、日本がいつまでも核兵器保有国であるという認識は一現在では国際的には持たれていない。世界で、近い将来核兵器保有国になるだろうと、こう予測される国の一つに挙げられていると述べています。そしてその決意さえすれば、計算どおりの威力を発揮する原水爆と、非常に進歩した非脆弱な運搬システムを持つことが可能な国だと、こういうふうに挙げられているわけです。
 現在、日本が核兵器を持たない根拠としては、私たちの立場から言えば、憲法九条を挙げているわけですけれども、政府は憲法九条ではなくて、国内的な要因として国会での決議、非核三原則を挙げています。さらに国際的な要因としては、核拡散防止条約の加盟国である、こういう点を制約として挙げているわけであります。そこで、日本が核兵器保有国になる国際的なきっかけとしては、幾つかいま挙げられておりますように、韓国がまず核兵器保有国として走り出した場合に、これにおくれないように日本も走り出すのではないか、こういうふうに国際的には見られているわけです、もう一つは、アメリカのプルトニウムの規制措置の緩和があった場合、これが一般的には日本が核兵器を持つきっかけになるのではないか、こういうふうに言われているわけです。
 そこで、現在の状況を考えてみますと、韓国はすでに核兵器保有国に向けて走り出している、こういうふうに見てもいいのではないかと思うんです。その韓国と日本の間では、済州島に日韓両国の原子力発電所から出る使用済み核燃料の再処理工場を共同でつくるという話も出ているわけであります。さらにまた先般の伊東外務大臣の訪米で、アメリカのプルトニウムの規制措置について緩和の話が出ているということも大きく報道をされているわけです。すなわち、こういう状況というのは、巷間言われているところの、日本が核兵器保有国になる国際環境というのがつくられつつある、できつつある、こういうふうに言われているわけであります。
 そこで、まず大村防衛庁長官に伺いたいのは、鈴木内閣の防衛庁長官として、自衛隊核武装については絶対に考えていない、こういうことが明確にお答えできますかどうか、この点をまず伺いたいと思います。

国務大臣(大村襄治君) わが国が国是とも言うべき非核三原則を堅持していくということは、繰り返し申し上げているところでございます。この原則を堅持してまいりますので、これからもこの原則を逸脱するようなことは、防衛庁としては一切考えておらない次第でございます。

○野田哲君 国際的な制約としての核拡散防止条約の批准国としての制約、それから、もう一つは、国内的には非核三原則、これを国是としているということですが、私たちは憲法第九条こそ日本が核武装できない最大の制約だと、一番重い制約だと思っているわけですが、政府はいままでこの問題について憲法上の制約ということは言っていないわけです。
 重ねて伺いますが、国会決議の非核三原則のこの制約がなくなったとき、それから、国際的な制約がなくなったときには、日本はどういうふうにこの問題について対処されようとするのか、重ねて伺っておきたいと思うんです。

国務大臣(大村襄治君) 非核三原則がなくなった場合、あるいは国際的な制約がなくなった場合という仮定のお尋ねでございますので、ちょっとお答えにくいわけでございます。防衛庁といたしましては、国会決議に基づく非核三原則が現存いたしておりますし、また国際条約にも加盟しておりますので、現在の時点におきましては、こういった原則等を遵守してまいるということを、繰り返しで恐縮でございますが、申し上げる次第でございます。

○野田哲君 先ほど国連局長にお伺いをしたわけですけれども、昨年のこのワルトハイム報告、日本の核問題についての記述、これを見ても、今井隆吉さんが専門家会議の委員として参加をした、こういうふうにお答えになっているわけですけれども、実際のバックグラウンドなしに参加をしたのであれば、当然このワルトハイム報告の中での日本に関するくだりは、日本は国会で非核三原則という核は一切持たないし、つくらないし、持ち込ませない、こういう国是があるということと、核に対しては非常に強い国民感情がある、こういうことから、日本では一切核の問題については持ち得ないんだ、こういう記述になるはずのところが、非常に高くつくであろうとか、中程度の規模のもの云々とか、こういうような表現が出てくるということは、すでに国内において、今井さんが参加をしたこの記述に反映をされるような政府部内での議論があった、こういうことが推察されるわけなんです。
 そこで、私は防衛庁に伺いますが、政府の部内で核武装についての可能性、能力について、すでにこのころから検討を始めているのではないか、こういう疑惑を持っているんですが、この点はいかがですか。

○政府委員(和田裕君) 核兵器を開発する目的での研究というのは一切行っておりません。

○野田哲君 私の手元に「わが国における自主防衛とその潜在能力について」、こういう二百ページを超えるかなり長文のレポートがあります。これはどこでつくったか、そういう点は一切書いてありません。書いてないからこそ、実は問題なんです。かつての防衛庁あるいは政府部内で秘密でやられていた研究――三矢研究とか、その他ずっと秘匿されていた資料のスタイルというのが大体こういう形になっているんです。
 そこで、まず、中身は後で私の方から要点を披露して、それぞれの見解を伺いたいと思うんですが、この表題について一つ非常に特異な表現を使ってあるわけです。
 それは、「わが国における自主防衛とその潜在能力について」ということで、「自主防衛」という表現を使っているわけですね。この「自主防衛」という表現は、防衛庁の文書でも一時的にしか使われていない、現在ほとんど使われていない用語なんですけれども、この用語はいつごろ使われましたか。たとえば防衛庁の公文書等でこの「自主防衛」という言葉が使われたのはいつごろですか。

○政府委員(塩田章君) 御指摘の「自主防衛」という言葉を、防衛庁の文書で使ったのはいつごろかということでございますが、正確にすべての資料で検討していつごろかということは、ちょっといまわかりかねるわけでございますけれども、いまはっきりいたしておりますのは、昭和四十五年の第一回防衛白書当時、中曽根長官の当時のことでございますが、の第一回の白書におきまして、「自主防衛とは、国民のひとりひとりが自主独立の気概をもち、国の防衛は、第一次的にはみずからの力で行なうというもの」という国会での当時の佐藤総理大臣の説明を紹介をいたしたくだりがございます。
 そこで、いま申し上げました防衛白書の中では、その総理の言葉を紹介した後、「自主防衛は必ずしも単独防衛ではない。自主性を確保して国益を守るために相互に提携するなら、集団安全保障体制も自主防衛の一形態である。」というふうに述べた部分がございます。私どもいま気がつくのはそれが第一回目じゃないかと思います。

○野田哲君 昭和四十五年の防衛白書に確かに初めてこの「自主防衛」という用語が使われておりますね。それ以降も余り使われていない、それ以前はほとんどそういう言葉は出ていない。こういう状態ですから、大体それとこの「自主防衛」という言葉が使われているこのレポートというのは同時期なんじゃないかな、こういうふうに推察されるわけです。
 そこで、前文ではこういうふうに書いてあるわけです。前文全部読むわけにいきませんが、趣旨として、
  現在の非核国の中で、核兵器生産の技術的能力を保有する国として、わが国は西ドイツとともに最上位にランクされているようである。
 しかし、その能力の実態についてはほとんど知られていない。この報告は、わが国が自主的な防衛政策を行った場合、核兵器生産の技術的能力がどの程度あるか、という問題について検計を行ったものである。
 つまり、わが国における核武装能力について、検討を行ったものである、こういうふうに述べているわけなんです。
 そして、その内容は、まず「第一章 わが国の原水爆生産能力」、「第二章 ウラン資源とわが国の原子力開発」、「第三章 運搬手段の生産能力」、つまりロケットとかミサイルとか、それから潜水艦、こういうふうな運搬手段の生産能力。「第四章核兵器憲法原子力基本法および国際条約について」、「第五章 各国の核兵器開発の経過と現状」、こういうふうに述べているわけです。
 これだけのことが網羅された核兵器の開発能力、このレポートでありますから、これは当然防衛庁で所持をされているものだと思いますが、いかがですか。

○政府委員(夏目晴雄君) ただいま先生御指摘のレポートにつきましては、防衛庁としては全く承知しておりません、したがって、中身について一々どういうふうに書いてあるか、それが防衛庁がどういうかかわりを持っているかということも一切答弁いたしかねるというものでございます。

○野田哲君 幾らここで私が押し問答しても、長官も官房長も防衛局長も持っておりますとは恐らく言えないでしょう、これは。言える筋合いのものでないわけですから、しかし、この内容としてはかなり詳細をきわめているし、そしてこれだけのものをつくるとすれば、これは政府の部内でつくる以外にはないわけでありますから、以下、書かれている内容について、主要な点について内容を披露しながら、それぞれの所管の政府委員の見解を伺ってまいりたいと思うんです。
 まず第一章の「わが国の原水爆生産能力」、この点について、主要な点ではこういうふうに書かれています。核兵器の生産能力を見積もるための基本的条件としては、必要とされる厳しい仕様を満たす核分裂物質の生産、二番目には核弾頭の組み立てとその実験、三番目には運搬系統の開発とコントロール、こういうふうに挙げているわけであります。やはり基本的条件としてはこの三項、これが当然基本的な条件になると思うんですが、装備局長それから科学技術庁原子力局長、御見解はいかがですか。

○政府委員(和田裕君) まず、レポートにつきましては、いま官房長から申し上げましたとおり、防衛庁は一切関知しておりませんので、レポートとの関連ではなしの御質問と理解するわけでございますが、私どもはさっき申し上げましたとおり、核兵器を開発する目的での研究、あるいは核弾頭を運搬するための手段等につきましての研究は、一切行っておらないということでございますので、それ以上のことについては申し上げられない、こういう状況でございます。

○政府委員(石渡鷹雄君) 科学技術庁におきましては、「平和の目的に限り、」という原子力基本法第二条の大前提のもとに原子力の研究、開発、利用を進めているところでございます。したがいまして、これを兵器としてということにつきましては、一切検討したことがございませんが、きわめて一般論といたしまして、材料も非常に厳しい規格を要求されるであろうというようなこと、あるいは私どもは一切経験はないわけでございますが、核弾頭の技術あるいは運搬技術といったものが、非常にむずかしい技術だろうということは、技術の一般論として推測できることかと考えます。

○野田哲君 「ウラン型原爆」という項目が次に記述をされているんです。「ウラン型原爆 高濃縮ウランの生産について」、そこではこういうふうに書かれているんです。
  天然ウランから 原爆級の高濃縮ウラン
 (九八%以上濃縮)を得る方法には、ガス拡散法、超遠心分離法、熱拡散法、電磁分離法、化学的分離法等がある。しかし、純度の極めて高い高濃縮ウランを相当量まとまった形で得るには、ガス拡散法か超遠心分離法が適しており、そこで、ガス拡散法によるウラン濃縮、わが国の技術水準について、わが国では京都大学工学部原子核工学教室の大石研究室が研究を続けている。工業化の決意をすれば、基礎的データはそろっている。こういうふうに述べて、以下ガス拡散法の原理をずっと説明をされています。そして問題点として、天然ウランの入手の問題。わが国の天然ウラン埋蔵量約三千トン。日本じゅうのウランを残らず掘り出して手に入れられる原爆は一千発。実際に採掘可能な天然ウランは数百トン、原爆二百ないし三百発。長期的な計画として、天然ウランの乏しいわが国としては海水中のウランの回収を考える。現在専売公社、工業技術院、動力炉・核燃料開発事業団によって検討中である。埋蔵資源の採鉱については技術的問題はない。こういうふうに記述されているわけですが、これ政策の問題は別にして、技術的な純粋な問題として、原子力局長いかがですか。

○政府委員(石渡鷹雄君) 現在世界的に実用化されております濃縮ウランの製造方法につきましては、先生ただいま御指摘のように、ガス拡散法とごく少量ではございますが遠心分離法と、この二つが実用化されているわけでございます。恐らく相当初期の時期に日本におきましても自主技術によるウラン濃縮ということが大分広く検討されたわけでございますが、私、不勉強で、京都大学の大石研究室の研究につきましてはちょっと詳細理解しておりませんが、現在わが国がとっている方向といたしましては、遠心分離法でいこうということでございます。ガス拡散法が日本においてとれなかった理由と申しますのは、まず大量生産方式であるということでございまして、日本の場合、原子力発電の開発に歩調を合わせて、濃縮能力も徐々にふやしていくということがよろしいのではないかという判断があったと思うわけでございます。
 それから、技術的に隔膜の開発ということが非常にむずかしい技術的難点であったと承知しておりますが、日本の場合、京大よりも理化学研究所におきまして、一時この基礎的な研究が進められたという実績がございますが、結局大きな規模での工業化ということについては、わが国はとても踏み切れないということでございまして、遠心分離法に向かっていったという状況でございます。
 なお、遠心分離法につきましては、日本及び欧州におきまして、現在研究開発が進められておりまして、規模は非常に小さいわけでございますが、少なくとも原子力発電に使う低濃縮につきましては、相当実用化のめどが立っているという状況でございます。

○野田哲君 一般的にはガス拡散法とそれから超遠心分離法、わが国では超遠心分離法、こういうことですね。
 超遠心分離法の問題の記述についてはまだ後で伺いますが、六弗化ウランの供給の問題というのが述べられております。これによりますと、旧原子燃料公社の東海里錬所は、ウラン金属生産のために四弗化ウランの製造を十年間にわたって行った実績があり、その技術を六弗化ウランに適用することは容易である。また民間企業でも大手の化学工業会社ならば、その潜在的能力は十分持っている。
 とくにダイキン株式会社は政府資金の援助を受け、六弗化ウランの製造プロセスの確立に成功している。
  六弗化ウランの供給は、技術上も、工場容量も全く問題はない。
 こういうふうに述べられているんですが、これはこのとおりですか。

○政府委員(石渡鷹雄君) ウランの、特に濃縮の場合、先生御指摘のように弗化物の形で、ガス拡散にしろ、遠心分離にしろ、弗化物の形にいたしまして、これ少し温めますと気体になるものですから、この気体の形で濃縮をしていくということでございます。その辺でこの弗化物をどう扱うか。むしろつくり方よりも、弗化物でございますので、非常に危険なものですから、扱い方の技術ということが当時恐らく議論になったんだろうと思います。現在この辺の四弗化ウランから六弗化ウランヘの転換につきましては、動燃事業団の人形峠におきまして研究は続けられておりますが、大体もう完成しているというふうに理解をしているところでございます。

○野田哲君 次に隔壁ですね、バリア。バリアの製造について、これは国産化はかなり努力を要するんではないか。しかし、実用バリアの生産に成功して、フランスがわが国の関係筋に対してバリア製造技術の売り込みの運動をやっている。したがって、バリアの製造に関する技術の問題は、フランスからの技術導入を行えば、解決が早まるだろうと、こういうくだりがあるんですが、大体そんなことなんですか。

○政府委員(石渡鷹雄君) バリアという御指摘でございますが、恐らくガス拡散法におきます隔膜のことかと存じますが、米国並びにフランスあるいはイギリス等で、むしろ原爆用に大量の濃縮を行うということで、相当開発されているわけでございますが、この技術はやはりそれぞれの高度の機密になっていると思いますので、なかなか国際的な移転ということは考えにくい技術ではないかと思うわけでございます。
 それから、日本におきましても、したがいまして、初期におきまして、基礎的な研究の段階で、先ほど申し上げました理研で研究をされたという事実がございますが、これは中断をしたままになっているわけでございます。なお、その段階で日本の研究のレベルは非常に高いなという評価を得たことがあるというようなことを記憶しております。

○野田哲君 次に、この資料は経費の点を計算しているんです。いまから約十年ぐらい前だろうと思うんです、これ年次を示してないんですが、大体いまから十年ぐらい前だろうと思うんです。経費について次のような見積もりをやっているんです。
  濃縮工場の処理能力を年間天然ウラン五百トンとし、九八%濃縮のウラン約二トンを生産するものと仮定する。その場合、アメリカなど海外の前例から工場建設費を推定すると、つぎのような数字を概算できる。
 天然ウラン五百トン処理  五十億円
 設備費  五百億円
 運転費  十億円
 電力料金  百億円
 年間固定費  五十億円
 生産量  二トン
  従って、原爆一発分の原価は、約一億円程度になるものと考えられる。
  この程度の規模のガス拡散工場――まあガス拡散法は日本では兵器の問題を離れても余り使われていないということなんですが、ここではそういうふうな記述があるわけですが、
  この程度の規模のガス拡散工場であれば、その建設工期は二年ないし二年半で十分である。こういう記述があるわけですが、この価格の見積もりはいかがですか。

○政府委員(石渡鷹雄君) こういう勉強をしたことがございませんので、原価と申しますか、コスト計算についてちょっと意見を申し述べられないのでございますが、私どもが持っております唯一の経験といたしまして、人形峠におきまして、三%ぐらいまでの濃縮ウランを年産約五十トンほどつくろうというパイロットプラントがこの秋に完成するわけでございますが、そのパイロットプラントの建設だけで約六百億円かかっているということでございます。したがいまして、まあ十年前の数字ではございますが、この数字ではとても今日はおさまらないだろうという感じはいたします。

○野田哲君 次に、先ほど原子力局長から御説明のありました「超遠心分離法による濃縮」という記述が行われているわけです。内容を読み上げてみますと、
  この方式は、アメリカ、西ドイツが過去十年余にわたって研究を続けており、わが国においても理化学研究所で研究が行われた。その資産を引継いで旧原子燃料公社のウラン濃縮研究施設で研究実験が行われてきたのである。原子力委員会の核燃料懇談会は、昭和四十三年三月十五日、遠心分離法を中心にウラン濃縮の研究開発を行うことを決定した。政府がその方針を承認すれば、総額九十億円を投じて昭和五十年までに「工業化するかどうか」の結論を出すことになっている。
  一九六七年、アメリカ政府から非公式ではあるが、成果の公表を差控えるよう要請があったようである。遠心分離法の最近の進歩についてアメリカがとくに重視しているためだと考えられる、こういう記述があるんですが、これは時日の経過としては正確になっているわけですか。いかがですか。

○政府委員(石渡鷹雄君) 事実の部分と、どうもちょっとはっきりしない部分とまざっている記述のように思いますが、現実にはそこに書かれておりますスケジュールがずっとずれ込んでおりまして、遠心分離のパイロットプラントの建設を決意したのが五十一年度、そして五十六年度に約七千台、能力としまして大体三%濃縮が五十トンぐらい生産できるパイロットプラントが完成すると、こういうことでございます。まあいろいろ研究開発の段階で非常にそれぞれ難点、むずかしい点が技術的な問題に逢着したわけでございまして、それを克服しつつ、やっとパイロットプラントの完了のめどがついたという段階でございます。

○野田哲君 アメリカから何か物申してきたという記述があるんですが、この点はどうですか。

○政府委員(石渡鷹雄君) この濃縮の一番の問題は、やはり効率のいい非常に超高速の遠心分離をやるわけでございまして、この辺の機械的あるいは電気的な技術が非常にノーハウと申しますか、技術的な難点であり、またポイントであるわけでございます。そういう点については、むしろ各メーカー、東芝、日立あるいは三菱といったメーカーがその辺を担当しているわけでございますが、間接的にそういうデータの公開については注意してほしいといったことがあったというふうに私ども承知をいたしております。

○野田哲君 次に、超遠心分離法についての「わが国における研究の現状」として、
  理研時代、東京工大学長大山義年教授をはじめ同大学の高島教授らの協力で、第一号超遠心分離装置を完成し、これを運転していたが、その研究目的や経費の問題などから、これは田原子燃料公社に引継がれることになった。
 旧原子燃料公社では、引続き大山、高島教授らの協力を得ながら第一号機の改良を行い、第二号機の試作運転を行ってきた、現在は第三号機の設計を終り、製作にとりかかる段階である。
 これらの製作は、東芝および石川島播磨によって行われたが、これまでの運転経験を通じての問題は、
  長時間高速回転を与える電動機の開発
  振動を伴わないような回転ドラムの製作
  長時間高速回転に耐え得る軸受けの開発
  長時間高速回転に耐え、しかも気密を保ち得るシールの開発適切な潤滑材の開発
  高速回転によって発熱するドラムの適切な冷却法
  六弗化ウランの強腐食性に耐え、しかも超遠心力に耐えるドラム材料の開発こういうふうにずっと例記をされ、「その研究の経過」として、わが国における超遠心分離法の研究の経緯は、昭和三十五年から四十年までの基礎研究期と、昭和四十一年から五十年までに予定される開発研究期、そしてそれ以後の実用期の三期に大別できる。
 こういうふうな記述があるわけですが、これは事実として正確なんですかどうなんですか。

○政府委員(石渡鷹雄君) 技術的難点が予想される、また研究開発で克服しなければならないポイントと申しますか、それにつきましては、先生ただいま御指摘になりました項目はそれぞれ当たっていると思います。

○野田哲君 それから超遠心分離法の経費について述べているわけです。
  ガス拡散法で推定したのと同様の工場規模で、工場建設および一年間の諸経費を推算すると、つぎのような概数が得られる。
  天然ウラン五百トン処理 五十億円
  設備費 八百億円
  運転費十億円
  電力料金 三十五億円
  年間固定費 五十億円
  生産量 二トン
 こういうふうになっているわけですが、非常にまあこれは現状とは大分違うと思うんですけれども、いかがですか。

○政府委員(石渡鷹雄君) 現在私どもが、まだパイロットプラントの段階でございますが、経験している数字とは大分違っているかと思います。まず、これは将来の大きな課題なんでございますが、やはり遠心分離機そのものが非常に高くつくというのが最大の難点になっております。それから、電力料金の問題がございますけれども、逆に遠心分離法の利点と申しますのは、電力消費が非常に少ない、ガス拡散法の大体十分の一ぐらいの電力消費であるという点が大きなメリットになっておりまして、このスムーズな回転を確保できれば、電力もほとんどそう食わないわけでございますので、電力につきましては、恐らく当時の見込みよりは改善されているのではないかと考えます。

○野田哲君 次に、「プルトニウム型原爆」、こういう記述があるんです。持つ持たないは別にして、この見解を伺いたいと思うんですが、
  プルトニウムは、天然には存在せず、人工的に造り出されるものである、これは、天然に存存するウランのうち、その大部分(九九・三%)を占めるウラン湖に中性子を吸収させることによって生産される。ウランの濃縮では、天然ウランのうち、わずか〇・七%しかないウラン湖を、天然ウランから分離濃縮することによって利用することを考えたが、プルトニウムの場合は、逆に大量に存在するウラン湖を利用するのである。
 プルトニウムは、ウラン脳に中性子を吸収させるとできるが、この方法によってできたプルトニウムには、プルトニウム239、24〇、241、242等の多種類が存在する。原爆に使用できるのは、この中のプルトニウム湖だけで、これを選択的に造り出し、取り出すことが必要である。ウラン湖を分離する場合と違って、プルトニウムの場合は、同位元素間の質量差が少いので、いったん239、24〇、241、242が不都合な混合の割合いで生産されてしまうと、必要な239だけを単独で分離することはほとんど不可能である。
 ウラン脇に中性子を吸収させてプルトニウムを造るにはウラン郷を取出すときに必要たつたような、ガス拡散工場等の特別の施設は必要としないし平和利用目的に使用されている通常の原子炉の運転法を変えるだけで十分なのである。従って、この原爆型は、世界の多数の国々が可能性をもっていることになる。
 こういうふうに述べているんですが、技術的に見て、これはどうですか。

○政府委員(石渡鷹雄君) ただいまの記述は技術的に見て大体正しい記述であると思います。

○野田哲君 次に、わが国の原子炉でプルトニウムを生産する場合のことがかなり詳細に述べられています。
  わが国の原子炉でプルトニウムを生産する場合を考えてみる、
  現在わが国に存在する原子炉、および建設中、計画されているものは、下表の通り決して少い数ではない。しかし、軍事用のプルトニウム生産を目的とする場合は、天然ウラン金属と黒鉛、または重水の組合せのものに可能性がある。つまり、原子力研究所のJRR−3および日本原子力発電会社の東海炉があげられる。しかし、原研のJRR−3は
  一、原研自体の内部事情
  二、出力が小さく、大量生産に適しない
  三、燃料は天然ウラン金属であるが、燃料棒
の形式がプルトニウム生産用としては不適当である。
  四、運転中の燃料連続変換が不可能。
  などの理由から、プルトニウム生産用としては適当ではない。
  東海炉は、この目的に適しているが、その理由は後述する。
 こういうふうに述べているわけでありますが、大体これも間違いないわけですか。

○政府委員(石渡鷹雄君) わが国でプルトニウム生産ということを考えたことがございませんので、にわかにその正確さについて判断はできないわけでございますが、一般論として、ガス炉あるいは重水型炉の方が、ウランの湖がプルトニウムに変わるという率が高いということが言われております。
 それから、これは全く仄聞するところでございますが、やはり発電用のような操業をやってしまいますと、燃料の中にできたプルトニウムに、先生先ほど御指摘になりましたプルトニウム24〇、241、242といったものが相当入ってしまって、プルトニウムとしては、不純なプルトニウムになってしまう。また、それの分離が不可能である、こんな事情が背後にあるかと存じます。

○野田哲君 技術的な問題をいろいろ記述されているので、一々見解を聞きたいわけですが、時間の関係もありますから、飛び飛びで、「水爆生産の問題」という項がありますので、技術的な面から、これについてお答えをいただきたいと思うんです。
  水爆の形は、第九図のようなものであると了解されている。材料の点からみれば、原爆と比鼓して大きな差は、重水素化リチュームの使用という点だけである。その材料の開発には二つの問題がある。その一つは、重水素一二重または三重水素一の分離である。この分離は、昭和電工などが電解分離の副産物として生産しているが、主目的ではないから効率の良い方法ではない。わが国では需要が少ないことと、特殊の技術を必要とするので、ほとんど開発の努力は行われていない。コンパクトで、しかも効果的な水爆装置を造るには、できるだけ純粋に重水素を分離することが必要だが、その技術は、多くの研究開発を必要とする。
 こういうふうに述べられているわけですね。この点はいかがですか、技術的に見て。

○政府委員(石渡鷹雄君) 重水素の分離それ自体技術的にそうむずかしい技術ではないはずなんでございますが、ここにも記述ございますように、需要がございませんので、現在日本で重水炉の開発等に必要な重水は、カナダ等から輸入をしているというのが現状でございます。

○野田哲君 次に、三十七ページを見ていただきたいと思うんです。「核弾頭の組立」という問題がありますね。これによりますと、
  核弾頭の組立
  (a)同原爆の組立 プルトニウム型であっても、ウラン型であっても、原爆の構造は同様である。
 プルトニウムあるいはウランの臨界量以上の量を、それぞれが臨界量以下の数個の小片に分け、それぞれの小片に高性能火薬を装着する。この高性能火薬の爆発によって、数個の小片を瞬時に集中させて臨界量を越える塊とし、核分裂反芯を起させるのである。
  そこで第一の問題は、プルトニウムウランの小片を、設計図通りに加工整形する技術である。この課題は、住友金属、三菱金属が手掛けている核燃料加工の技術であるし、動力炉事業目も、すでに旧原燃公社時代に加工に関する経験をもっている。
  第二は、小片の組立てあるが、爆発の装置には、ガンバレル方式とインプルージョン方式の二万式がある。前者は、筒状の容器の両端に爆発材料を入れ、火薬の爆発によって、両側から(あるいは一方から他方に)押しつける方式である。後者は、球状の容器の内面に数個の小片をはりつけ、外側に装着した火薬の爆発によって、中心に臨界を越える量に集中する方式である。後者の方が技術的にはむずかしいが、効率は優れており、とくに水爆の起爆用の原爆は、ガンバレル方式ではうまくゆかないようである。
 それから、あと中略して、「水爆の組立」という項があります。
  水爆は、起爆剤となる原爆の周囲に、重水素化リチウムを置けばよいのであるが、重水素化リチウム自体は、サラサラした粉末である、このようなものの成形、加工は、わが国にとっては全く未知の分野である、例えば、加熱加工成形を行えば、分解してしまうであろう。
 こういう記述がありますが、これは専門家から見ていかがですか。

○政府委員(石渡鷹雄君) 爆弾になりますと、私どもも専門家いないわけでございますが、気になりますのは、住友金属、三菱金属等が手がけているという燃料加工技術でございますが、これはあくまで三%濃縮での原子力発電用燃料の技術は持っておりますけれども、プルトニウムをいじるということについては、現在民間では一切技術を持っておりません。それで、非常に試行的に動力炉核燃料事業団がやっておるわけでございますが、プルトニウムの扱い方ということにつきましては、今後非常に慎重に技術開発、あるいは習得に努めていかなければならない技術である、このように考えております。
 なお、爆発の装置あるいは水爆の組み立てにつきましては、とても意見を申し上げるポテンシャルを持っておりませんので、御容赦を賜りたいと存じます。

○野田哲君 局長、七十ページから七十一ページをちょっと見ていただきたいと思うのですが、この技術者の数について触れておりますね。
  原子力科学技術者の数
  日本の原子力関係科学技術者の数について科学技術庁原子力局編「原子力開発長期計画」は昭和四十年度現在の実数と、今後の所要数を次のように示している。
表がそこに書かれています。
  核兵器の生産に必要なスタッフの数として、原子力科学技術者五百人、関連技術者千三百人とされている。前者は、上の表で原子力専門と核燃料関係の合計とすれば、日本の現有数は約千百三十人であり、後者は二千七百人であるから、核兵器生産にとって最大の条件である人的な問題は、日本では充分まかなえる。すくなくとも量的には、日本は潜在核保有国の名に恥じないものがあるといえる、ただし、これらの技術者をひとつのプロジェクトに動員できるか、どうかには問題がある。
 こういうふうに述べて、つまり、原子力科学者の数は、核兵器の生産のために動員すれば可能な数を持っている。問題は、各企業にそれぞれ分散をしているのであるから、一つのプロジェクトに集めれるかどうかが問題なんだと、こういうところまで触れているわけですが、これは約十年前の数でありますけれども、科学技術庁でつくった資料をもとにして書かれているわけで、これは正しいわけですね。

○政府委員(石渡鷹雄君) 七十一ページの表でございますが、昭和四十年当時に予想いたしました原子力利用が計画どおり進んでおりませんので、恐らく実数はこれよりも下回っているかと存じますが、年々この関係の技術者が充実されてきているということは事実でございます。
 なお、やはり原子力関係に携わります者は、まず第一に原子力基本法の精神をたたき込まれるわけでございまして一何かこういったプロジェクトでどうかといっても、まさにここに指摘しておりますように、とてもこんなことでは人が集まるとは思えないわけでございます。

○野田哲君 今度は運搬手段の方に問題を移したいと思うんで、防衛庁の方でひとつ八十三ページからちょっと目を通していただきたいと思うんです。
 「運搬手段の生産能力」について第三章で述べています。第一は「弾道ロケットの開発能力」、その(1)が「能力見積りの設定条件」として、
  わが国の核運搬手段開発の能力を見積るに当って、当然核を既に保有、あるいは保有を計画しつつある先進国のそれと比較して論ずる必要があるが、アメリカあるいはソ連のそれとの比較はもちろん困難であり、相手は強大かつ進み過ぎている。イギリスのそれは自力開発の部分はかなり旧式化し、ポラリス型潜水艦のそれは大部分アメリカに依存している。
 したがって当面わが国の核運搬手段開発能力を見積る上での最適モデル国としては、国民総生産高においてもほぼわが国と等しいフランスをあげるのが適当だと考えられる。フランスは、現在進めている弾道ロケットの開発を手がける前に、一応超音速の有人爆撃機ミラージュ4型を中心とする戦略空軍を保有した実績があり、この点わが国の能力と比較する上で問題として残されるが、フランス戦略空軍の活動は北大西洋条約軍およびアメリカの早期探知警報システムからの情報提供という前提なくしては考えられない。したがって、フランス戦略空軍は一応NATO軍の枠内においてのみ有効とみなしてよいものと思われる。
 以下ずっと述べて、八十四ページで、「フランスが現在保有し、またはこれから保有しようとしている核兵器は次の四種類に整理される」という記述があって、結局モデルとしてはフランスを考えると、こういうふうに述べているわけですが、防衛庁ではそういう議論はやったことはありますか。

○政府委員(和田裕君) 先ほども申し上げたとおり、私どもは核兵器を開発する目的での研究は一切行っておりませんので、したがいまして、核弾頭はもとより、核の運搬手段につきましての検討も行ったことがございません。

○野田哲君 いろいろここで運搬手段についての検討が行われ、それの記述があるわけですが、「ミサイル発射プラットフォームの検討」、こういう項目があるわけです。この「ミサイル発射プラットフォームの検討」の中では、わが国が弾道ロケットを開発することを決意した場合、五種の発射プラットホームが考えられる。すなわち、一つは原子力潜水艦、それから地下サイロ基地、陸上移動式、海上移動式、空中移動式、このうちのどれを選択するかが問題となってくる、地下サイロ方式は、技術的、経済的に見て比較的容易であるが、地震の多発、それからわが国の人口密度など解決困難な問題が多い。それから海上航行艦船は、少数艦船の行動では、潜水艦や航空機の好餌となる。しかし、一応わが国の場合検討の対象にすべき型式であろう。それから陸上移動式、これはわが国の鉄道が狭軌であることが問題である。また無数のトンネルの高さが制約を受ける。それから電気供給ステーションが破壊された場合には全面ストップの可能性が高い。ディーゼルにしても鉄道が寸断される公算が大きいと、こういうことでの難点を述べています。それから、航空機は新規に爆撃機を開発せざるを得ない。わが国航空技術及び産業規模の現状を考えると、ネガティブな要素が強い。結論として、原子力潜水艦は「わが国にとって潜在能力を発揮しうる型式と考えられる。」と、こういうふうにして、「ミサイル発射プラットフォームの検討」については、結論としては原子力潜水艦を使うのが一番いいと、ここまでいろんな条件を挙げながら述べているわけですが、持つことを考えたことはないということでなくって、技術的に見てこの検討はどう考えられますか。

○政府委員(岡崎久彦君) ただいま御引用の、フランスの開発しているロケットでございますけれども、いま御引用になりましたSLBMあるいはその前のIRBM、これいずれも二千七百五十あるいは四千キロメートルぐらいの射程を持っております。それで、この種類のロケットの開発というのは、これは別に、もちろん軍事目的でございませんけれども、この種類のロケットを日本で開発しておりますのは科学技術庁でございまして、防衛庁としてはその方面の研究は一切いたしておりませんです。

○野田哲君 研究しているとかしてないとかということでなくって、プラットホームとして、どういう方法が一番いいのかという点では軍事的に見ていかがなんですかと、こういう点を伺っているわけです。

○政府委員(和田裕君) いま五つのプラットホームにつきまして、いろいろコメントがあったようでございまして、それのどれが一番いいかということについて検討しているかどうかと、こういう御質問だろうと思いますが、そういったようなことの検討も一切したことはございませんので、コメントはできない、こういう状況でございます。

○野田哲君 検討している答えを私は聞いているんではないんですよ。純粋な技術論として、問題提起されたことに対して、もし採用するとすれば、ここに書かれているようなことを採用することになるんですかと、こう言って聞いているんですよ。

○政府委員(和田裕君) 純粋な技術論という御質問でございましたが、私ども自衛隊の装備品につきまして研究開発をしているわけでございまして、全く考えたこともないようなものでございますので、それについての検討もしておりませんので、したがいましてコメントをすることもできない、こういう状況でございます。

○野田哲君 時間が参りましたので、大村防衛庁長官に、いま政府委員の皆さんとのやりとりを聞いておられて、長官の認識を伺いたいと思うんです。
 大体、いま私が主要な点だけ時間の制約の中で駆け足で、中に書かれていることについて、内容を披露をしながら、技術的な面からの政府委員の見解を伺ったわけですが、まずいまから約十年ぐらい前に、このレポートはつくられているということ。中身については、これは政府の資料を集めてこれを駆使しなければできない。同時にまた、民間の資料についても原子力関係については、相当な詳細な資料を収集したものでなければできない。
 それから、技術的な面から憲法上の制約、国際的な制約、そして軍事技術的な面、これはかなりのプロジェクトチームでなければできない。そしてまた、この資料の収集作業には相当の資金を必要としているだろうと思うんです。そして、年代としては、用語等からして、そしてまたここに出てくる資料、一九六八年ぐらいまでが大体資料としては取り上げられているわけですね、昭和四十三年ごろまでが。だから、大体それから四十五年ぐらいの間、そして、使ってある用語が「自主防衛」云々という言葉で、昭和四十五年に防衛白書等で特徴的に使われた言葉を使われている。こういう面からして、総合的に考えて、どうしてもこれは政府の部内でつくられたものだ、こういうふうに私は指摘をせざるを得ないと思うんです。
 同時にまた、昨年発表されたワルトハイム国連報告、ここにおける日本の核兵器の問題についての記述もある程度関連をしているんじゃないか。全くのこういうバックグラウンドがなしに書けるはずはないと思うんです。そういう点からして、明らかにこれは昭和四十年の前半において、政府の部内でプロジェクトチームをつくって、あるいは政府が、どっかの機関が学識経験者等に委託をしてつくらせたか、このことしか考えられないと思うので、その経過等について、恐らくこれは防衛庁にも資料としてあると思うんです。私が指摘をしてもないと言われているんですが、あるはずですから、それらのいきさつ等について調査をして、どこの機関でだれが責任者になって、こういう検討をやったのか、そして、これがどういうふうに使われようとしているのか、これを調べて明らかにしていただきたい、こういうふうに考えるんですが、長官としてどうお考えになりますか。

国務大臣(大村襄治君) いろいろ詳しいデータに基づいてのお尋ねでございますが、防衛庁といたしましては、先ほど政府委員がお答えしましたとおり、非核三原則堅持という点もこれあり、核兵器を開発する目的での研究は一切行っておらない次第でございます。したがいまして、経過を明らかにせよというせっかくの御要望でございますが、やってないものを出せと言われましても、せっかくの御要請にこたえるわけにはいかないのではないか、大変恐縮でございますが、これをもってお答えにさせていただきたいと思うのでございます。

○野田哲君 長官、つくられるはずのない――日本はいま長官が言われたように、非核三原則という国是を持っている、だから、つくられるはずはないということですが、そのとおりなんです。つくられるはずのないものがつくられているからこそ、私は問題にしているんですから、こういうものが秘密でつくられるような状態を放っておくわけにいかないから、これはもう一遍調べてもらいたい、政府の部内でどこでこんなことをやったのか、調べてもらいたい、こういうふうにお願いしているんです。