カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記

表現規制反対活動を昔していた。元エロマンガ家。元塾講師。現在は田舎で引きこもりに似た何か。

メディアの構造問題

http://www.systemken.org/geturei/32.html
神保哲生 ビデオジャーナリスト 

1.日本のメディア機能

 もし、メディアが根こそぎやられてしまっていたらどうなるのか、これが今日のテーマです。結論から言ってしまうと、根こそぎやられている。どういう構造が背景にあるのかを、お話ししたいと思います。たぶん、驚かれると思います。その驚かれるところが実は非常に重要なポイントです。メディアが根こそぎやられていることを知る手段は、基本的にありません。とにかく、根こそぎですから。
 皆さんたちのコミュニティでは、独自のネットワークが働いている場合もあるかもしれませんが、もっと行政レベルまで広げたとき、政治、経済、社会…スポーツも、それらの100%に近い情報は、メディアを通じて知っているのではないかと思います。メディアの業界用語で「チャンネル」と言いますが、そういうパイプを通じて入ってきた情報を元にして、自分たちの世界あるいは地球がどういう状況になっているのかを知る。世界観が形成されている側面が、どんなにメディアに対して不信感をもって臨んでいたとしても、それが否めないという前提を、まず最初に自分の中で自問自答していただきたい。
 メディアには二つの重要な側面があります。ひとつは、メディア以外の業界に何か大きな問題があった場合、ほとんどメディアを通じてそれを知る。例えばゼネコンにどういう問題があるのか、ダイエーがどのように不良債権を抱えているのか、皆さんはそれをメディアを通じて聞くわけです。問題は、メディアに問題があった場合です。メディアが自分で自分たちの問題を伝えない限り、世の中に出てこないということです。もうひとつは、世界中のメディアがインチキをやっていて自分の悪いことを言わないかというと、そうではありません。ところが、日本の場合、かなり極端にひどい状況になっている。特異な状況になっています。
 アメリカで独立当時のトーマス・ジェファーソンが、「よく情報を得ている公衆は、民主主義のファウンデーション(基盤)である」と言っています。メディアがしっかり機能して情報が行き渡らなければ、民主主義が機能しないことは、多くの国で非常に幅広く、強く認識されている。だから日本以外の国は、アメリカも含めて、メディアが巨大になりすぎたり、メディアの力が少数に集まりすぎたり、資本が独占されたり、寡占されたりすることを規制するルールや法律を、たくさん持っています。しかし、日本はこれが全然ありません。

2.クロスオーナーシップ

 英語で「クロスオーナーシップ」という言葉があります。同一資本が新聞とテレビを同時に保有することを言います。日本の場合、ニッポン放送の放送免許を産経新聞に与えた段階で、クロスオーナーシップの橋を渡ってしまって、それからテレビと新聞の系列化が一気に進みました。
 東京のチャンネルでいえば、4、6、8、10、12の5局が、それぞれ新聞と組んでいます。この五局プラスNHKが、それしか言論機関がないといってもいいほど、世論に対する影響力、情報量、あるいは伝播力で突出しています。それから、共同と時事通信社があります。地方紙は東京の全部の役所に記者を置くことができないので、ほとんどこの二社の記事を使います。さらに、地方紙の中で突出して強いブロック紙北海道新聞と、中日新聞東京新聞)、それから西日本新聞の三つがあります。
これらの日本のメディアの主になっているグループのことを《16社体制》と言い、ほとんどの政治情報、経済情報、特に行政情報は、この16社を通じてしか外に出ない状態になっています。

3.記者クラブ体制

 次に問題なのが、記者クラブ体制です。記者クラブは、16社が日本のすべての行政機関と経団連経済同友会ほか主要な経済団体にあります。それぞれの役所で専門誌などが少し入ってきたりしますが、基本的には16社をクラブ用語で《常駐社》と言います。記者を常駐させ、行政機関から出てくる情報を逐一、自分の新聞なり通信社に配信しています。 問題は、記者クラブが非常に排他的な組織で、クラブ員以外は記者会見の場に行けないとか、発表内容の刷り物をもらえないなど、談合的な体質の中でやっている。つまり、馴れ合いになるということです。そこにいること自体が、アドバンテージになってしまっている。行政から情報をもらっている状態なので、対等ではなくなってしまう。筆が鈍るのも当たり前です。

4.再販価格制度

 三つ目に、再販価格制度があります。これも、日本の構造問題の中で、重要な問題ですが、ほとんど知られていません。なぜなら、メディアが全部、軒並みそれのお世話になっているからです。
新聞は新聞社間で、この値段以下で売るのはやめようと話し合って決める。本来は独占禁止法に触れる行為だが、国民の文化や生活に欠かせないものは、誰でも買える値段であるべきで、そこは自由競争しないようなカルテルを認めようということで、再販価格制度は成り立っています。
しかし日本の場合は、世界に冠たる1千万部の読売新聞、それを900万部で追う朝日新聞。自社の高層ビルが汐留に建つような状況で、いまだに再販価格制度というシステムで保護されているという実態があります。

5.新規参入を拒む現状

 実は、この再販とクロスオーナーシップ記者クラブが、相互に密接に絡み合っています。まず、16社体制と言いましたが、基本的には五系列のメディアを中心とした独占状態をつくっているのがひとつです。
 それから、再販や記者クラブ制度によって、新規参入がほとんど不可能になっているのがもうひとつ。
 アメリカで、新しいメディアが出来ると、優秀な人材がワッと入ってきます。ところが日本は固定化された寡占状態の中で、空前の繁栄を誇っています。テレビ広告市場を事実上5社で独占できるわけですから、ものすごくズブズブのコスト構造で、効率も悪いが、それでも儲かる。全社が、上場企業。共同や時事は電通株を持っていて、電通株が上場したことによってその上場益でビルを建てました。非常に収益力もあるので、新しくメディアが参入するということは、あり得ない状態です。
 テレビ局なら、30歳で年収1200万ぐらいが当たり前。40歳手前で2000万ぐらいです。そういう収入で、仕事もきつくない。本人たちは、拘束時間が長いだのと言うけれど、はっきり言って日本の中で最も競争力の低い業界のひとつです。でも、それは当たり前でしょう。競争がなくて、新規参入がなくて、何で競争力が維持できるのか。だから、低い競争力で、非常にモラルも低い中で、給料だけはいいから、誰も辞めないわけです。