保守系の政治勉強会?に参加してみた
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地元に私が友人を全然持たないことを老母がムダに心配し、某勉強会に参加させられた。
「論語」の勉強会だということでしたが… HP見ると、「チャンネル桜」の動画が貼ってあったり「日本創新党」の宣伝が書いてあったり。
「母ちゃん、これ、政治系の集まりですよ。母ちゃんは政治嫌いだろ? しかもこれ、差別主義者の系列ですよ」
と事前に老母に説明するが、伝わらず。「お前は地元に友人がいないから、どんな人にもいい面と悪い面があるから、いい面だけを見て…」云々と老母が反論。
別な意味で、どういう集会なのか見てみたいとは思ったので、参加してみた。
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1;安岡正篤 → 伊與田覺 → 講師 という流派なようだ。
2;冒頭に、某元衆議院議員による「外国の脅威から日本を守ろう」イベントが某神社で開催されることのチラシが配布される。この「勉強会」の人々がイベントスタッフなのだという。
3;テキストは「仮名論語」。漢文ではなくて読み下し文をテキストにしている。学問的正しさなどは無視して、生活に即したラインで「こう読むのが正しい」みたいな講釈。その講釈の根拠は? …伊與田覺先生はこう言った、というのが根拠な様子。この講師は伊與田覺による講義は何回も聴いたそうだ。
4;頻出するキーワード「学者の先生は言っていないが」 つまり学問的正しさを無視していますよ、という弁明。それを聞きながら私が連想するのは「反ユダヤ主義者にとっては、知性はユダヤ的なものである。だから、彼は知性を〔略〕心静かに軽蔑することができる。」http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20061128/1164660641という事柄。
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6;講師は「一年前から」政治に目覚めた、との説明。これは事実なようだ。「政治に目覚め」、チャンネル桜や日本創新党が「テレビでは伝えない真実」を伝えているという講釈。…それって「ネットde真実」というやつですか?
7;前提抜きで出てくるキーワード。「日本の昔ながらの良さを潰したのは日教組だ」「私利私欲は悪だ」「日教組と教育基本法が私利私欲を教育している」
…断言するがこの講師は教育基本法を生まれてこの方読んだことはない。前提抜きで偏見を聴衆に植え付けるのは情報操作の基本であるが、講師はおそらくそれを無自覚に行なっていると私は感じる。初めに強く偏見を刷り込んでおくと、人間は論理を積み上げて思考することができなくなり、重要な局面で思考エラーを起こすようになる。
8;前提抜きで頻出するキーワード。「『私』に囚われないのが、本来の日本の良さだ」「普通の人は自分優先(それは悪である)。論語を正しく学べば、自分がなくなる(それが良いことである)。」
…この手のセミナーは「自律した自己を鍛えないことを善しとせよ」というメッセージを無自覚に発信する。
関連
http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20090329/1238255255 http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20101102/1288704544
9;前提抜きで出てくるキーワード。「天皇陛下を敬う心を日本人は失った」
…現天皇陛下は即位の際に「国民と共に日本国憲法を守り、国運の一層の進展と世界平和、人類の福祉の増進を切に希望して止みません」と勅語を下されていらっしゃるが、そのことを講師は理解していないのではないのだろうか。知らないのかもしれない。
10;頻出するキーワード。「自覚が大事」
…何に「自覚」しろと言っているのだろうね。自分自身の発言内容に関しては相当無自覚だったようだが。
11;講師は稲盛和夫を絶賛。元横浜市長の中田宏を絶賛。ワタミの社長を「軽い」と批判。[3/7 11:30 追加]山田宏を肯定的評価をしていたが、中田宏には人物として劣る、のだそうだ。はあそうですかはあ。[以上、追記]
…こういう「勉強会」に参加する人は政治にウブな人が多いだろう。私以外に参加者は3人だった。そういう人へ「論語」をダシに政治的偏見を植え付けるという作業が行なわれる。そのことは事前に予想していた通りではあったが、講師自身が相当に政治的にウブであるのが予想外。
12;丸山真男がたしか「擬似インテリ」「擬似教養」と呼んだと思うが、それが、ここにある。「擬似教養」は不滅である。15年戦争に人々を駆り立てた「イデオロギー」の一つが「擬似教養」だ。「擬似教養」は、自然科学への「ニセ科学」と対応する、社会科学版の「ニセ科学」だ。
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13;部屋のデザインは「儒学者」然として良かった。講師の衣装とルックスも「儒学者」然として、それらしかった。儒教とは外見を重々しく見せる宗教である、という評価を小室直樹が『宗教原論』でしていたが、その「実践」はけっこう上手にしているとは思った。腕のいい設計士だと思う。設計士を訊ねそこなったことだけは少し心残り。
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15;「テレビでは全然真実を伝えない。元を辿ればGHQのせいだ」
…その台詞自体は正しい。しかしながらチャンネル桜による情報操作にはナイーブ(純朴)であるというのが皮肉だ。
16;「普通の人は全然真実や政治に関心がない。竹島の問題とか、北朝鮮拉致事件とか。いかに関心がないか、街頭に出て演説したりビラを撒いたりするとよく判る」
…一年前から「ネットde真実」な方がそう力説されてもなあ…とか思う。
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下手に口を挟むと口論になって紹介してくれた方に迷惑がかかるので(老母が老母と私の共通の知り合いにお願いしてこの「勉強会」に参加した)ずっと黙って聞いていたが、帰り際のとき、何か意見はありませんか、と訊かれたので、以下のことだけ伝えた。
「情報操作といえば、読売新聞は、今はどうだか知りませんが、アメリカ情報機関の持ち物でしたよ」http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20090526/1243279867
「北朝鮮拉致事件といえば、新潟で『救う会』が分裂した時の、片方の代表は広域暴力団住吉会の人間でしたよ。『チャンネル桜』も暴力団のことになると口を閉ざしますから、情報操作をけっこうしていますよ」
…思うに、「政治へ具体的な関心を抱くな」という、日本総掛かりの情報操作への抵抗というのは難しいものだ。この講師は主観的にはその情報操作に抗しているつもりで、客観的にはチャンネル桜系の情報操作に囚われている。
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ずっと以前、「救う会」の「勉強会」に参加したことが一度だけあった。あの時も講師がえらい政治的にウブだなあ、と呆れたが、保守系の市民運動というかそういうのは政治的にウブでかつ無前提に偏見を刷り込まれている、という共通項がありそうに思う。
それは保守系市民運動だけの問題じゃなくて、以前「反・つくる会」の集会に行ったときも感じたのですけどね。http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20050215/1108492404 http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20050220/1108845716
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保守系市民団体、とカテゴライズしていいかどうか判らないけど、チャンネル桜支持者系統は、こういう「勉強会」に熱心みたいだね。こういう定期「勉強会」をして参加料を徴収する、という仕組みは、たとえば表現規制反対運動なんかでももっと行なわれてしかるべきかな、とは思った。2時間で参加料1000円、テキスト代別、でした。
感じるところのある同志は をクリックされたし。
画像は http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=17012705 から。
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