カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記

田舎の生活とか、政治関係とか、表現規制のこととか、狂乱している老母との生活とか

『おおかみこどもの雪と雨』の微妙さ危うさ

『おおかみこどもの雪と雨』がヒットしているらしいね、と嫁が言った。今週で上映が終わるので嫁と見に行った。
見終えた後、別に嫌悪感はなかったが、深みも感じなかった。金返せとも思わなかったがこれ以上金出す気もならなかった。
映像は良い。とくに水の描写が。
「我ながら野暮だなあ、こんなところ気にしなきゃいいのに」と思いながら上映中から気になった点は以下。
1;金に関する事柄を、この映画はごまかしている。一般に良いストーリーというのは肝の部分に大嘘があるものであるから、ここがそこであるのは文学的には普通のことだ。「花」の夫が残した貯金は仕事の内容と期間から考えて500万円程度が限界だろうから、人が生きていくうえで年200万くらいはかかるもので、さらに子供二人を育てるとなったら年300万くらいはかかるものであるから、子供二人が小学校に行くまで無収入というのはありえない。
2;1の派生なのだが、小児科と犬猫病院のどちらに行こうか悩むシーン、このシーンはギャグではあるのだけど、保険の効く小児科と保険の効かない獣医で悩むわけがない。同じ治療内容で獣医なら何倍も金がかかる。
3;田舎の家の補修を映像では「花」一人でなしとげたが、プロがやって数百万かかる仕事だよなあ、とか思ったり。
4;ラスト近く、雨に打たれた「花」は低体温症で死ぬよなあ、とか、それをコンクリの床に移動させてもやはり低体温症で死ぬよなあ、とか。
5;獣人であろうが狼であろうが、保健所の指定する予防接種を受けなきゃ病気にかかるだろ、とか。それもけっこう重病に。
6;自然出産って、トンデモで危険だろ、とか。
7;小学生の「雨」が失踪したら、その後、刑事事件になるだろ、とか。
8;全寮制中学校に入れてそれで子育て終了であるわけないだろ、とか。
見ている間に感心した点は、上記水の描写のほか、姉「雪」と男の子との関係性。「思春期の女の子の描写が良かった」、と俺が嫁に言ったら、嫁は、「うーん、どうかなあ、あれは男の目から見た思春期の女の子だから」、との返答。ああ、そうなのか。あの「雪」の行動は実は少女の仮面をつけた男の思春期なのか。
繰り返すけど、この映画に嫌悪感は感じなかった。なので、そこそこヒットしたのは、嫌悪感を感じさせなかったからだろうなあ、そういう描写力を監督が持っているからだよなあ、とは思う。
家に戻って、他の人の感想を検索してみた。「子供を障害児の暗喩だと読んでしまったら」「作者はそうではないと言っている」「狼男を外国人の暗喩だと読んでしまったら」「作者はそう読まないでくれと言っている」まあ監督が描こうとしているのはそういうのではないだろうなあ、とは思うけど、そう読まれても耐える力強さはないよな。逆に監督が伝えたかったものって何なんだろう。その夜は答えが出なかった。
一晩寝て、思った。
この映画で描かれているのは「男の目から見た理想の母親、理想の嫁」だ。
「花」は疲労することもストレス死することも子供をいびることもない、理想の母親だ。
「花」は一人で子育てをして決して文句を言わない、理想の嫁だ。
「男の目から見た、理想のシングルマザー」を描いたのが、『おおかみこどもの雪と雨』だ。
ストーリー後半の「田舎」は、「都会人が考える、『リアルファンタジー』として理想化され漂白された田舎」だ。
「田舎」というファンタジー空間を舞台に、「理想のシングルマザー」というファンタジーの主人公が、「理想の育児(ただしかなり閉鎖的)」を行うというのがこのストーリーだ。メタ視するとかなりトホホな内容。それを嫌悪感を感じさせずに描写しているのは才能だ。「理想化され漂白された『リアルファンタジー』としての田舎」はけっこう説得力ある描写がなされている。その描写力で何を語っているかというと、さて何を語っているんだろうなあ、という雰囲気系だけど。
微妙な才能だよなあ。危ういよなあ。断崖絶壁のギリギリを渡っていることに本人はあまり気づかないでスイスイ渡っている類の才能で。ムカデがどう自分が歩いているのか意識しない間は歩いていられるのと同じ意味で、自覚しない間は視聴者とファンを増やせるとかそういうタイプの才能かなあ。
悪く言っているつもりはないのだけど、自省的論理的な監督ではないんだろうね。論理的な監督でないのなら、監督業は長く続けられないかもしれないね。自省したら潰れてしまいそうに思うしなあ。

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画像は http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=30422174 から、戦国武将 大谷吉継