岩間敏『石油で読み解く「完敗の太平洋戦争」』(朝日新書、2007年)
岩間敏『石油で読み解く「完敗の太平洋戦争」』(朝日新書、2007年)を読了。ごく粗く内容をまとめる。
1;太平洋戦争の直接のきっかけは、世界初の「石油危機」 に日本が陥ったため。石油輸入を依存していたアメリカに対し挑発を続けた日本が、アメリカから石油禁輸されたから。しかし日本軍は「石油危機をどうにかする戦争」だとは考えなかったので、エネルギー枯渇してボロ負けした(本書より)。
2;太平洋戦争において、アメリカは日本に「兵糧攻め」戦略で臨んだ。「海上封鎖」し、つまり中国大陸朝鮮半島から日本への食料供給を止め、東南アジア油田地帯からの日本への石油供給を止めた。日本軍は、「戦争とは正規軍対正規軍による決戦のはずだ」としか考えていなかったので、食料とエネルギーの兵糧攻めに対して全く無頓着であり、食料とエネルギーが枯渇してボロ負けした(本書より)。
この本に書いてあったわけではないが、この「兵糧攻め」対「武勇こそが戦争」という図式で前者が後者に勝つってのは、近代以前の戦争でも繰り返し行なわれている。太平洋戦争の場合、我々は細部情報ばかり拡大連呼されているので、この根幹図式に存外気づかない。
3;現在の日本の石油環境・エネルギー環境もたいへんに脆弱である。世界のエネルギー産業は欧米諸国が握り続けている(本書より)。
この本に直接書いてはなかったが、日本はエネルギー独立するのはたいへんに困難な地理にあり、よって戦争遂行が基本的に不可能な地理に存在する。現在もマラッカ海峡とホルムズ海峡を敵国に押さえられたらたちまちエネルギー的に兵糧攻めに陥る。
4;日本はサハリン油田からの天然ガスパイプライン構想にも消極的でありhttp://d.hatena.ne.jp/kamayan/20060920#1158688652、ロシアからの太平洋パイプライン構想にも消極的でありhttp://d.hatena.ne.jp/kamayan/20050710#1120989786 http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20060117#1137441647、1999年にイランで発掘されたアザデガン油田の「優先的交渉権」を日本は得ていたのに、「操業権」を放棄し、権益比率を75%から10%へ縮小した(本書より)。http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20061006#1160074967
日本はエネルギー独立がたいへんに困難な地理にあるが、どうもその上、エネルギー的に独立できない状況にわざわざ自分を追い込むことにはわりと積極的なようだ。
5;2002年「エネルギー政策基本法」ならびに2006年「新・国家エネルギー戦略」では「原子力立国計画」を掲げ、核燃料サイクルや高速増殖炉を推進している(本書より)。http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20061029#1162059308
これもこの本に書いてあったわけではないが、原子力発電は全然石油の代わりにならないし、国防的には日本をどんどん弱点だらけにする愚策で、原子炉の排水がたとえば三陸海岸の魚を汚染し、自分で自分の食料的国防をぶち壊すことになるわけだが、日本は国防的に脆弱化することならびに日本国民の生活を困窮させることにはたいへん熱心であるようだ。
http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20060430#1146379685に記したエネルギー国防関連の記述は、改めて正しさが証明されたようだ。…中学受験社会程度の知識で書いたものだから、書いたときはけっこう不安だったのだけど。我々は中学受験社会程度の知識はそれぞれ断片的に保有はしているが、その知識を改めて有機的に見つめるという作業に乏しいと思われる。
エネルギー国防関連 http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20050708#1120766576 http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20061020#1161294466 http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20050129#1107030644 http://d.hatena.ne.jp/kamayan/archive?word=%2a%5b%b9%f1%cb%c9%5d
- 作者: 岩間敏
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2007/07/13
- メディア: 新書
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