カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記

表現規制反対活動を昔していた。元エロマンガ家。元塾講師。現在は田舎で引きこもりに似た何か。

バカ親列伝/子の心、親知らず

うちの塾の生徒の一人に、とても可愛くて、しっかり者で、明るくて、誰よりもキッチリと宿題をこなして、誰よりも理解力があり、たいへんに学習に対して積極的で真面目な、6年生の女生徒がいる。塾で学習を開始したのが他の生徒に比べ遅かったので、同じクラスの生徒に比べ現時点で必ずしも成績が目立つわけではないが、あの知識吸収力と努力から、うちのクラスでは最終的にはトップになるだろうことは担当一同が認めるところである。
彼女には妹がいて、妹の送迎も彼女が行なっている。
父母は受験に不熱心というか無関心で、彼女自身に任せ切りにしている。まあ、そのこと自体はいい。
彼女は6年生で、中学受験のためにこっちが感心するほど一生懸命学習し、彼女はサッカーもたいへん熱心に行い、チームのエースストライカーをしている。
ふつう、中学受験というのは「親の受験」と呼ばれ、本人より親が熱心なものだ。彼女のように家庭は受験に不熱心で当人が一生懸命学習をしている、というケースは極めて例外的だ。彼女は受験校の選択や情報収集も全て自分で行なっている。
彼女の父母は今年、つまり彼女が受験をするこの年に引越しを予定している。住んでいる県が変わる。まあ、今年は住宅が安くなったりして引越しが多く、彼女の家もそのケースの一つなのかな、と思った。受験勉強するだけでけっこうたいへんなのだが、そのうえ受験期に引越しをするのは受験生である彼女にかなりな負担がかかるのだが、父母は「受験のことは彼女自身に任せている」から、つまり受験に冷淡だから、受験のことを意に介さない。塾に対しても引越しの予定を秘密にしている。私は彼女のお気に入り講師なので、彼女から相談を受けその件を知っている。
まあ、以上まではいい。
さて受験対策の夏期講習をうちの塾でもするのだが、彼女はその夏期講習期間中、関西の祖母の家へ帰省する予定になっている。何も受験期に夏期講習期間中に帰省しなくてもいいんじゃないの? と思った。たしかに夏期講習というものは塾産業にとって別料金で父母から金をむしる機会ではあるのだが、しかし夏期講習の間の演習や授業は受験を考えた際、秋以降の成績に直結し、まして彼女くらい熱心な生徒ならフルに参加しないのはちょっとおかしいし、彼女自身は夏期講習に参加したがっているのだし、どういうことなんだろう、とは思った。
夏期講習に参加できないという話を彼女から聞いて、「それは変な話だね、親御さんに話をしてみよう」と彼女に言ったところ、「親には言わないでほしい、私が怒られる」と彼女は返答した。まあ別に彼女は虐待を受けているわけでもないのでこの台詞は彼女が父母に過度に遠慮しての発言だ。
で、ご家庭に電話して聞いてみた。母親と話をして分かったのは、父母はいかに彼女が努力をしているのかを全く理解していない、ということだ。
私の反省点としては、彼女がいかに努力家であるかを今までちゃんと彼女の父母に伝えることができていなかったことではあるが、父母から見た際、彼女が全く勉学の努力をしていないし遊んでばかりいるように見えているというのに、こっちは驚いた。
「本人が受験に全く不熱心なのだから、夏期講習になんかやる必要はないし、夏期講習という口実で塾へ彼女が行くと、夏休みの間、家では彼女の妹が一人きりでいることになる、それならば夏休みの間、関西の祖母のところに妹と二人で行っているほうが、祖母にとっても嬉しいことだ」
というのが母親の話だった。
妹さんを一人だけで家に置いておくことが問題なのですか? と問うたところ、「サッカーもやめていないし、当人は受験に不熱心なのだろう」との回答があった。いや、当人は決して不熱心ではないし、誰よりも努力家だし、学習への努力を誰よりもしたうえでサッカーも継続しているのは凄いことなのだから、それは彼女を評価してあげなくちゃ可哀相だ、ということを伝えた。
妹だけを祖母のところへ預けるわけにはいかないのですか? と問うてみた。「新幹線で祖母のところへ行くのだから、それを妹だけにさせるのは無理だから、姉である彼女にさせなければ無利だ」という旨を母親が言った。「祖母の方に迎えに来ていただくのは無理なのですか?」と問うたところ、「それは無理だ」と回答された。
この家庭は、両親ともに銀行員だ。父母ともに不在でいる時間が長い。その結果、家庭のことは彼女に負担をさせているらしい、ということが話を聞いているうちに分かってきた。
両親ともに銀行員であるのなら学歴の重要性は父母ともに分かっている筈なのだが、父母ともに不在がちで彼女に負担を与えていることへの負い目を父母が「いや、彼女に意欲がないことが問題なのだ」と責任転嫁しているのだ。
彼女は両親にずいぶん遠慮しているし、彼女は誰よりも努力しているのだから、ぜひご家庭で話し合いをされてほしいと思う、と伝えた。
電話の後、私以外の担当講師たちに、彼女の父母が彼女に対して「努力していない」という印象を持っていた、ということを報告した。全講師が驚いていた。
父母は不在がちだから、彼女のことをしっかり見えていないのだ。彼女の明るい性格が、父母からは「いいかげんな性格」と理解されていたのだ。親は自分の都合をしばしば子どもに転嫁する。
うちの塾には保護者会があり、保護者を見る機会があり、また保護者への連絡にわりと熱心だ。塾講師作業としては負担ではあるが、保護者を見る機会があるというのはたいへんに勉強になる。「なぜこの子はこうなんだろう」と顔をしかめざるを得ない場合、保護者を見ると得心する、「ああ、この子はこの親の被害者なんだな」と。
今回話題とした「彼女」は誰よりもしっかり者で、彼女の父母は彼女に甘えているのだ。例外的なケースではあるが、彼女への同情を込めて、ここに記述しておく。そして彼女が夏期講習会にフル参加できるようになるよう祈る。
(念のために書き添えると、父母が不在がちになってしまうことそのこと自体を責めているわけではない。父母が不在がちになってしまわざるを得ないのは日本の行政全体に責任があり、個々はその犠牲者なのだ。)
http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20070103#1167829399 http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20070209#1170956791 へ続く。

ぽちっとな 

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ロミオとシンデレラ

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