カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記

表現規制反対活動を昔していた。元エロマンガ家。元塾講師。現在は田舎で引きこもりに似た何か。

「ゲーム脳」論の御先祖・「野球害毒論」

克森淳さんのサイトでときどき展開されている、とても有意義な、「ゲーム脳」論の御先祖・「野球害毒論」探訪。
http://homepage3.nifty.com/digineba/eraikoto21.htm

明治44年、東京朝日新聞に「野球と其害毒」という記事が連載されました。当時の学生野球の流行(プロ野球はまだない)に苦言を呈するもので、第一回目に登場したのが当時の第一高等学校(今の東大教養学部)校長で現在は五千円札の肖像にもなっている「新渡戸 稲造(にとべ・いなぞう)」。
 新渡戸はこの中で野球を「巾着切の遊戯」と呼び、「相手を常にペテンにかけよう、計略に陥れよう、塁を盗もうなど目を四方八方に配り神経鋭くしてやる遊び」とまで言いました。さらに学校側が選手の学業成績に手加減している事も指摘しています。
 彼の主張は野球と言うものが紳士的ではないという主張と、実際に当時の学生野球の名門である一高の実態を考慮した発言で、選手の成績云々は考えてしまう話です。
 しかし次の回は公立中学校(今の高校)の校長が「選手達が試合の後に牛肉屋や洋食屋に行くのがけしからん、そんなことをしていたら堕落する。それに野球で右手を酷使したら体に異常が出る」といった感情論を持ち出し、一気に論議のレベルが下がりましたが、当時の「良識的な親」には受けが良かったらしくこれを真に受けて「野球のボールを手で受けると、衝撃が脳に伝わりバカになる。このように野球の害毒は生理学的にも証明できる。」と言い出す人もいたそうですから呆れた。「その10」で批判した青柳武彦氏の主張と全然変わらん…。
 こんなバカな話があるかと当然、野球ファンからの反撃が開始されます。昭和38年に映画化もされた小説「海底軍艦」の作者として知られる作家の「押川 春浪(おしかわ・しゅんろう)」は大の野球好きで、「天狗倶楽部」という親睦団体でよく野球をしていました。この人が決然立って反論を開始します。しかし、新渡戸との談判は断られ、朝日新聞からは「お前らなんか叩き潰してやる」とまで言われてしまいますが「読売新聞」や「毎日新聞」の前身「東京日日新聞」の助けを借りて反論を発表したり演説会などを開いたりして、ついには春浪率いる野球擁護派が圧勝します。
 私はこの話をはじめて知った時、「野球害毒論者は今のゲームの悪口言っている連中とそっくりだ。こういう事はいつの時代にも起きることなのね」と、呆れてしまいました。
 この「野球害毒論争」はのちにこれが元で春浪の立場を苦しくしたり、このとき野球を悪く言っていた朝日新聞が今の高校野球の前身「全国中等学校優勝大会」を開催するなど色々後日談があるのですが、詳しく知りたい人はSF作家「横田 順彌(よこた・じゅんや)」氏の著書「明治不可思議堂」(筑摩書房)、「明治の夢工房」(潮出版社)、「快男児 押川春浪」(会津信吾氏との共著、情報センター出版局/徳間文庫)などに載っているのでそちらを調べてください。今回の文章の元ネタでもあります。

続きは以下
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