カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記

表現規制反対活動を昔していた。元エロマンガ家。元塾講師。現在は田舎で引きこもりに似た何か。

2008年光市母子殺害事件差戻控訴審放送についてのBPOの意見

http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20120221/1329823796の続き。

http://www.bpo.gr.jp/kensyo/decision/001-010/004_key5-nhk.pdf

2008(平成20)年4月15日 放送倫理検証委員会決定 第4号

委員会が憂慮するのは、この差戻控訴審の裁判中、同じような傾向の番組が、放送局も番組も制作スタッフもちがうのに、いっせいに放送されたという事実である。〔8p〕

〔委員会の憂慮は以下2点である〕
(1)番組制作者は、刑事裁判の仕組みをどの程度理解していたか
(2)番組制作者は、本件差戻控訴審を「人間ドラマ」として取り扱う場合でも、適切な取材・演出・表現をしたか〔10p〕

裁判制度に照らして見るとき、本件放送の際立った特徴は次の2点だった。
(1)被告・弁護団に対する反発・批判の激しさ
(2)裁判所・検察官の存在の極端な軽視〔10p〕

これらの背景には、番組制作者に刑事裁判の仕組みについての前提的知識が欠けていたか、あるいは知っていても軽視した、という事情があったのではないだろうか。〔10p〕

いちいちの事実の評価を被害者遺族の見方や言葉に任せてしまい、自分では考えない、判断しない、という怠惰やずるさはなかったと言えるだろうか。〔14p〕

本件放送をいくら仔細に見ても、被告人の人間像の描き方は断片的であり、一面的でフラットである。いちいちの供述がどのような文脈で語られたのか、何を意味するのかについても、まったく不明のまま、被告がたんに荒唐無稽で、奇異なことばかり言っているという印象が強調されることとなった。〔15p〕

まるでその内面に迫ることが悪いことでもあるかのように、何かに遠慮し、尻込みしている気配すら感じられる。〔15p〕

。巨大な放送システムを持ち、大勢の番組制作者がかかわり、演出や手法のノウハウを蓄積しているはずのテレビが、新聞の見出しを見ただけで、誰でも口にできるようなことしかやっていない。いったい番組制作者は何を調査し、何を思い、何を考えたのか。被害者遺族が語ったこと以外に、言いたいこと、言うべきことはなかったのか。画面には、取材し、考察し、表現する者の存在感が恐ろしく希薄である。〔16p〕

なお、一部の番組は、少年の精神鑑定を行った大学教授の信用性をことさらに貶めるような演出を行い、しかもその場面に、本人の了解なく、また「資料映像」であるとの断わりもなく、過去に別の放送局が行った、まったく別テーマの取材インタビュー時の映像を流用し、放送したことがうかがわれる。これは、視聴者に、あたかも今回、教授が少年の精神鑑定について語っているかのような誤解を生じさせる放送だった。
過去に撮影した映像を「資料映像」として使うことは、テレビではしばしば行われていることではあるが、このような強い演出意図がある場面で、本人の好意的了解のもとで撮影された別の映像を無断で使用することの是非は、今後のためにも真剣に検討されなければならない。この件について、当該局は、精神鑑定を行った教授にあらためて映像使用の意図を説明し、納得を得る努力をするべきである。〔16p〕

委員会は前述のとおり、8放送局の20番組、33本、7時間半におよぶ放送を視聴した。そのなかにひとつとして、被告人の心理や内面の分析・解明を試みた番組はなかった。このこと自体が異様なことであると、まず言っておかなければならない。〔16-17p〕

聴き取り調査に応じたある番組制作スタッフが浮かべたのは、「それが何か(問題ですか)?」という表情である。それは、被告の内面を限られた手がかりからでも洞察してみる、それを番組にする、という発想など、最初から頭になかったことをうかがわせた。
「死刑かどうかだけがニュースであって、被告の内面など解明する意味がない」
「結果の重大性や被害者遺族の心境から見れば、小さな問題だ」
「被告の供述も、弁護団の説明も信用ならない」
「荒唐無稽な供述、奇異な振る舞いは合理的な理解が不能で、取り上げるに値しない」
委員会が視聴した33本の番組の大半からは、ストレートには言わないにしても、こうしたメッセージが伝わってくる。〔17p〕

公正性・正確性・公平性の原則を十分に満たさない番組は、視聴者の事実理解や認識、思考や行動にもストレートに影響する。一方的で感情的な放送は、広範な視聴者の知る権利に応えることはできず、視聴者の不利益になる、ということである。〔21p〕

ふと思ったんだが、こういう不当な報道に対しては、弁護士たちは訴訟して不当を訴えるべきじゃないかなあ。そうしない限り日本の「報道」のこういう悪癖は治らないと思う。

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