『電波利権』続き/地上波デジタルは「平成の戦艦大和」
http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20060327#1143396645■[読書]『電波利権』 の続き。
第2章
民間企業の資本関係にまで行政や政治家が介入できるのは、免許という絶対的な権限を政府がもっているからである。
〔略〕日本の放送業界では、免許の申請者を「一本化調整」し〔略〕実際は彼らの談合によって「大連合」が形成され、ほとんど自動的にその局に免許が与えられることになる。(43-44p)
ラジオの場合にも、東京では民放FMは3局ぐらいしか聞けない。AM局の圧力によって、その枠を極端に絞り込んだためだ。〔略〕アメリカには1万2000局ものFM局がある。大都市では200局ぐらい聞けるのが普通で、〔略〕細かくセグメント化された市場で多様な番組が聞ける。(45p)
全国にテレビのネットワークが急速に広がった最大の原因は、政治家による利害調整だった。〔略〕
日本の民放テレビは〔略〕主要な局を除くと、民放は売り上げが70億円程度の中小企業にすぎないのだ。
このため、経営状態の悪い地方局にはキー局から「ネット料」とよばれる補助金が支払われる。(46p)
おかげで、テレビ放送が始まってから50年以上、日本の地上波局には、倒産・合併・買収といったケースが事実上、1社もない(例外はイトマン事件で詐欺にあって倒産した近畿放送だけ)。〔略〕放送業界こそ、今でも残る「最後の護送船団」なのである。
本来、各県に番組を配信するだけなら、キー局がその県に中継局を建てればよい。しかし、日本のテレビ局は県域免許が建て前になっているため、各県ごとに放送局を設立しないと、その県では放送できないのである。その結果、民放が全国に127局もでき、自力では経営が成り立たない零細企業が大量にできてしまった。〔略〕地方民放の経営者も、一本化調整で選ばれた地元の名士にすぎないので、経営のことはほとんどわからない。こうした弱小局が日本民間放送連盟(民放連)の大部分を占めているため、業界の合理化がほとんど進まないのである。(47-48p)
第4章 地上デジタル放送は「平成の戦艦大和」
インターネットによって双方向の通信が可能になり、ブロードバンドの普及で映像の伝送も容易になった今日では、放送事業の形態そのものを変えなければならないはずである。
ところが、放送業界は政治力が強いため、ビジネスモデルを変えないまま、既存の放送局の利権を丸ごと温存して、電波だけをデジタル化するという「デジタル放送」ができてしまった。〔略〕
ヨーロッパの場合、放送の伝送はデジタル化したが、画面は従来のテレビと同じだ。この場合は「多チャンネル化」というわかりやすいメリットががる。また、広域に放送するといういう意味では、通信衛星(CS)がもっとも効率的であり、地上波の放送をデジタル化するのは非効率的だ。(68-69p)
出力が高く中継器の少ない「放送衛星」(BS)を使っているのは日本だけである。世界の主流は、チャンネルのたくさんとれる「通信衛星」を使った衛星放送である。ところが日本では〔略〕通信衛星なら100チャンネル以上とれる帯域で、20チャンネルぐらいしかとれない放送衛星による放送が続けられている。
〔略〕NHKのBSが成功した最大の原因は、総合テレビを使って(広告費ゼロで)大量に番組宣伝を流したことであって、その成功は他の民間企業の参考にはならない。(68-71p)
さらに悪いのは、BSデジタル放送である。これはもともとは〔略〕NHKとWOWWOW以外にもチャンネルを開放して、新規参入を進めようということで出てきたものだ。
ところが「比較審査」の結果、参入を認められたのは、在京キー局の関連会社ばかりで、しかも各社ごとに3チャンネル分(6メガヘルツ)が割り当てられた。〔略〕
無料で割り当てられた電波を有料で「又貸し」できるとは気前のよい話だが、民放各社は結局、どこもこの方法はとらなかった。あるキー局の幹部によると、「〔略〕又貸しすれば、ソニーや松下などテレビに新規参入したいところが入ってくる」からだという。〔略〕チャンネルをふさいで新規参入を妨害するためにHDTVが採用されたのである。(71-72p)
〔略〕BMLという独自言語を急ごしらえでつくったため、インターネットにつながらない仕様になってしまった。(72p)
民放系のBSデジタル5社はすべて赤字で、〔略〕スポンサーもほとんどつかなくなった。(73-74p)
地上波デジタル放送は、BSよりもさらに重大な問題を抱えている。〔略〕地上波デジタルは既存のテレビをすべてデジタルに置き換え、現在ほぼ全家庭に普及しているアナログ放送を停止する計画なので、全国民を巻き込むからである。電波法によれば、2011年で現在の(アナログ)テレビ放送は終了し、デジタル放送でないとテレビは見られないことになる。(76P)
放送局にとってもデジタル化はメリットがない。〔略〕デジタル化にともなうコストは、NHK・民放あわせて中継設備だけで1兆円以上にのぼるといわれる。
「コストが1兆円以上で収入増がゼロ」というプロジェクトが、資本主義社会で進行しているのは驚くべきことだが、その結果は当然、大幅な赤字である。〔略〕
デジタル化の過程を通じて、テレビ局と政治のかかわりはいっそう深まった。そもそもデジタル化が目的なら、衛星でやれば200億円ですんだのに、1兆円以上かけて地上波でやるのは地方民放の延命が目的である。(78-79p)
アナログ放送を停止する予定は、2011年7月である。政府は電機メーカーや販売店に対し、アナログテレビに「2011年・アナログテレビ放送終了」と書いたステッカーを貼るよう要請した。〔略〕
しかし、これまで述べたように、2011年にテレビを100%デジタル対応にすることは不可能だ。かつてカラー放送が始まってから、白黒放送をやめるまでに25年かかった。〔略〕
〔略〕最悪の場合には、〔略〕有効利用どころかアナログ・デジタル両方の電波をふさいでしまう可能性もある。
要するに、民放連の前会長である氏家齊一郎も正直にいうように、「地上デジタルは事業としては成り立たない」のである。(83-84p)
- 作者: 池田信夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/01
- メディア: 新書
- 購入: 3人 クリック: 164回
- この商品を含むブログ (93件) を見る
関連
http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20061201#1164948579■[メモ][情報統制][呪的闘争]「小泉政権」と「地上波デジタル」